恋しかるべき


休日の午前は自堕落極まる。
いつ何が飛び込むか分からない職業柄、返上呼び出しを食らうこともあるにせよ休暇は休暇だ。
喉の渇きに起き出したのはつい先刻、あくびを零しながらのろのろと歩く。
コップ一杯、八分ほど注いだ水を飲み干したところで聞こえる寝息。太宰はぱちりと瞬いた。
否、むずがるような響きに夢見でも悪いのかと机を底で叩いて寝台へ向かう。
さほど広くもないその上で、片側に寄って眠るのは自分が抜けた跡に相違ない。
身体を冷やさぬようにと掛け直した布団から白い腕が覗いて、確かめるようにシーツを探る。
ほんの少し寄った眉、残った体温に納得のいかぬ様子の相手に口元が緩んだ。
素早く寝台へ乗り上げ、元の位置へ潜り込む。惑う腕を導き、引き寄せる。

「お探しの私はここだよ」

程なく密着し、太宰の胸元で落ち着いた敦が安堵の吐息を漏らす。

「ん、」

もぞりと擦り寄って再度の呼吸。片手で背中を支えながら、もう片方で柔らかく髪を撫でた。
瞬間、敦が目を見開く。

「っ!?」

寝惚けからの覚醒、同時に両手で胸を押して距離を取る。
といっても、太宰の力を引き剥がしきれず見詰め合うのにちょうどいいくらいだ。
ぱちぱち目をしばたたかせながら疑問符を浮かべる敦の頭をもう一度撫でる。

「そんなに照れなくても。一度や二度の関係じゃあるまいし」
「その云い回しはどうかと思います……」
「うふふ」

太宰の言葉に脱力したように呟く顔はじわじわ染まった。
今度は声に出して笑い、指で髪を梳いてやる。

「私の温もりが恋しかったんだねえ」
「っ!」

一気に耳まで赤くなってしまった敦に顔はにやけるばかりだ。
もっと恥ずかしいことを昨晩たっぷり堪能しておいて、いつまでも初心なのが愛らしい。

「かわいいなあ」

本心から零れ落ちた言葉は甘く響き、当人は不服そうに睨む。
それが助長にしかならぬと教えてはやらず、太宰が続ける。

「君が起きるまで離れないよう心掛けていたのだけれど」

独り言に近い音程に敦が首を傾げた。
この少年は拒絶を厭う。喜ぶ者はそりゃあ少ないに決まっているけれど、境遇の問題だ。
己を肯定する世界を受け入れるには、まだ掛かる。

「ほら、おいで」

支えていた力を緩め、拘束の意味を無くす。
つまりは自分で抱き付けと云ったのだ。正しく理解した敦がまだ赤い顔で戸惑いがちに。

「いえ、あの」
「おいで」

語尾へ重ねて、にこりと微笑む。
相手は何度か口をぱくぱく動かしたのち、諦めておずおずと身を寄せる。

「うん、素直だ」

再度しっかり抱き締めて、耳元へ囁く。

「おはよう、敦君」
「おはよう、ございます」

太宰さん、と続いた呼びかけに目を細める。

「私だけに甘えればいい」


戻る