貴方に言わなきゃならない事がある
睨まれることにもそろそろ慣れてきた、と言えば危険を損ねる手段をひとつ増やすことになるだろうか。 とにかく目の前の子供は睨みつける。私を。 怒りの色で瞳を染めて、視線で射殺す勢いで。 ごくごく引き絞った低い声を発した。 「控えろ」 「なにを?」 「いいから控えろ」 「ルーク、主語が抜けては会話が成り立ちません」 「ひ・か・え・ろ」 一文字一文字噛み締めるようにそれでも声を荒げずに強調の意を示す。 「従者のように脇にでも控えろということでしょうか」 「この状況でどの口が言ってんだコラ!!」 やはり耐え切れず叫んだルークは見下ろす先に。 そう、組み敷かれて最後の抵抗を試みているという、ことだ。 「お前ほんとありえねぇっ」 「ちゃんと日は置いているでしょう」 「お前終わらねぇから次の日マジ全身痛いし声とかおかし…って何言わせてんだあああ!!」 「勝手に反芻して怒らないでください」 怒りに羞恥が加わって力の限り暴れる相手を受け流す。 何発か身体を掠めるが大した痛みもない。 どうせ、 「どうせ、本気で逃げられやしないくせに」 微笑んで囁いてしまえば、止まる動き。 「ほら逆らえない」 伸ばした指が顎をなぞって。 「違う違う違う違う!」 振り払うような仕草は必死に。 「お前が、お前が離さないから……!」 「では、解放してあげましょうか」 ぱ、と申し訳程度に乗せていた腕を離す。 足は押さえていないのだから、このまま逃げようと思えば簡単だ。 「どうぞ?押し退けられても止めませんよ?」 ぐ、と何か言いたげな目線を寄越し、そろりと身体をずらして起き上がろうと。 したところで軽く耳に舌を当てた。 「―――ひぁ…っ!」 上げてしまった声に自らを恨み、そのまま私へ。 「何しやがるっ」 「貴方が逃げるのが勝手なら私がするのも勝手です」 「ジェイドッ!!」 投げつける全てを摩り替えてしまえ、いますぐに。 先刻より近くなった体勢はもはや密着寸前。 視線に込められたものは怒りだけではないだろう。 胸を押す力は既に弱く、説得力はないに等しい。 「逃げることを迷う時点で貴方の負けと認めなさい」 衝撃を受けたような瞳を合わせながら口付ける。 瞼を閉じるができずに、徐々に艶を帯びる様は実に愉快。 息も絶え絶えにそれでもまだ睨み上げ、出してくるのは意外や意外。 「俺に溺れてるくせに偉そうに」 思わぬ反撃。 |