虹
買出しの帰り道。 消費アイテムが膨大に詰まった紙袋を分けて持ち、大人と子供が道を歩く。 ふいに、子供が「あ」と声を上げた。 「どうしました」 「虹、出てる」 そういえば先程の通り雨。 店にいる間に止んでしまったので気にも留めなかったが、どうやらその名残らしい。 てくてくと、緩やかに進みながらルークがちらちらと虹を見る。 その仕草に、思わずジェイドは笑いを零して。 「こけないでくださいね」 「こけねーよ」 む、と返した表情にまた笑い、なんとはなしに足を止める。 つられてぴたりと止まるルークのそれは反射的行動か。 「虹のふもとには宝がある、なんて話がありましたね」 「へー、面白いな」 虹へと視線を数秒送り、思い出したように呟いた。 すると好奇心旺盛な子供はあっさり表情を戻して笑う。 簡単、だと言えばまた怒るであろう、思いは胸の内にとりあえず留め、 説明口調で軽く続けた。 「しかし、虹は本当は円ですから、ふもと自体存在しないんですけども」 「自分で出しといて落とすなよ……」 つまんねぇ奴。 そんな声が今にも繰り出されそうで、彼はそこがまた楽しいだなどと思ったりもする。 だから、至極爽やかに微笑んでみた。 「折角だから言ってみようと思いまして」 「なにが」 「今の貴方の位置、虹のふもとに見えなくもないですから」 「―――え?」 歩みを止めた場所は狙ったのかそうでないのか。 虹が隠れる位置に見事、立っていたのは、そう。 「おやおや、ロマンティックな口説き文句に挑戦したつもりなんですが」 大げさに肩を竦めてみせるズルイ大人。 荷物を持っているというのに小器用な、等と数瞬浮かんだ考えは吹っ飛んで。 「ちょ、は?!え、いま、はいいい?!」 「冗談ですよ、落ち着きなさい」 言語の紡げなくなった子供にくすくすとまた笑いを零すと、 憎らしげに見つめてくる彼は臨戦態勢の如く。 「そうやって俺で遊んで楽しいか」 「ええ、とても」 「うっぜー…」 「宝と形容しようとは思いませんが、一番ではありますよ?」 「っ―――…!!」 あまりにも簡単に落とされた衝撃に思わず袋を取り落としかける。 ひょい、と片手で支えたジェイドは「大丈夫ですか?」とまたもや涼しい笑顔。 吐き出されるものは、深い深い溜息。 嫌なことではないにせよ、少年にとって心を騒がせすぎるものは勘弁願いたい。 「お前さ、そういうこと言って恥ずかしくねぇ……?」 「貴方にしか言いませんから」 さらり。さらさら。台詞が踊る。 「たぶん」 「多分とか言うか!」 「これも冗談です」 「っあーーーー!!この!」 再び歩き出して交わす会話はいつもの調子。 「なんかいつも負けてる気分だ…!」 「勝たせるつもりがありませんからねぇ」 「絶対お前いつか絶句させてやるからな!!」 「意味、分かって言ってます?」 ある意味負けっぱなしだというのは、ここだけの話。 |