罪と罰


何の因果か。
回される腕は痛くないというのに強くがっちりと捕まえて離すことはなく、頬に添えられる手は恐ろしいほどに優しく温かい。 睨んでも罵倒してもにこにこと終始ご機嫌な目の前の敵は、いい加減飽きて欲しいくらい甘ったるい言葉を微笑みを投げかける。

「楽しいかそんなに楽しいか俺で遊んで楽しいか」
「ええ、それはもう限りなく」

叩きつけて返ってくるのは即答、楽しくて困ってますと言わんばかりの声音で即答ふざけるな。

「だっからお前うっぜーうっぜーうっぜー!」

喚いて暴れて身体を捩る。こいつの顔を見たくなかった、もうほんとに無理だった。
嫌がらせじゃなくてなんだってんだ、俺を苛む怒りと羞恥とその他諸々、助けて欲しい。
捕えた腕の力が強まり心外だとても言うよう、覗き込んでくる。ちかいちかいちかいちかい!
今更だとか関係ない、近いって!

「貴方が素直になれない分、私が素直になってるんですよ」
「勝手に決めるなまとわりつくな!もう少し俺を尊重とかしろよ!」
「限りなく大切にしているつもりですが?言葉を交わす時も触れる時も……」

吐息に掠れて消える語尾、やめろ気持ち悪い変な空気出すな。
奴の指が耳の後ろと頬を同時になぞる、走る悪寒を振り払おうと反射的に跳ねのけた。

「どこの話をしてんだ!!人の話を聞かねぇなお前は!」

もしくは聞いてるくせに応じないってことか、それだな絶対それだこいつ。
威嚇の構えを崩さない俺に向かってつまらなそうな表情を。そんなとこだけ分かりやすくてマジむかつく。

「少し落ち着きなさい、疲れませんか」
「誰のせいだよ……!」

滾る怒りそのまま、搾り出す声は震えて唇を噛んだ。
ふむ、とひとりごちるジェイドの声。何かと思えば、ちゅっ、と響く軽い、音。
触れた、のは――…

「いきなりなにしやがるーーーーーっっ!!そこが嫌なんだお前のそこが嫌なんだ! でもって了解取ったって許可されないから仕方ないとか言い出すんだよお前はさああああ」

頭を抱えて叫ぶ叫ぶそして経験から答えを出して更に遣る瀬無くなって項垂れる、しかない。

「いやはやそこまで理解してもらえているとは光栄です」

「違うだろ!」

両手握りこぶし、振り上げんばかりに反論。反論かこれは。違うな指摘だ。
目が合えばさらりと真顔でつまらないことを、とでも言いたげに口を開いた。

「キスの1つや2つで心の狭い。今更そんなことで騒ぐ間柄でもないでしょうに」
「お前は頼むから口開くな喋るな帰ってくれ」

息継ぎのないつっこみを今日俺は何度口にしたことだろうか。


「嫌です。貴方の傍にいること貴方を感じることその全てが私にとって最重要事項。 それを奪ってどうする気なんです、愛しいルーク」
「馬鹿なんだろ、いや知ってたけど更に馬鹿なんだろジェイド。 マジ薄ら寒いから愛とかいうなお前がいうな、むしろ俺が帰るべきか」

畳み掛ける笑顔も台詞も何もかもを同じく畳み掛けて相殺させた。
どこからそんな表現捻り出してくるんだ、それは凄いと思うそれは凄いが発揮しなくて全然構わない。
寒い寒い鳥肌が立つ、さっきから駆け上がるのは悪寒で間違いない、間違いないんだから。

「そうやって全てを跳ねつける貴方さえ、いえだからこそ可愛いと思ってしまうんです、諦めて下さい」

この物好き。

「どんな堂々巡りだこのやろう!!」
「ルーク」

ふっと優しく笑って呼びかけてくる。そんな手には乗らない乗るもんか知らないお前なんか。
だけど投げられたのは宥めでもましてや謝罪でもなく通告だった。

「私を虜にしてしまった責任、というものです」

甘い責め苦からは逃げられない。


戻る