拒絶
たまに、そう、たまに周囲は俺に対して夢を見すぎているんじゃないかと思う。 頼りにされるのは嬉しいし、期待に応えるのは苦ではない。でもそれとは別に頭の片隅で考えてしまう、ちらついてしまう言葉がある。 言ってしまえば見せてしまえば心の奥底でたまに疼く黒いものもなくなってくれるかもしれない。でもそれをしてしまうことは全てを裏切ることと直結だった、少なくとも俺の中では。 結局は俺はいい格好をしていたいのだ。完璧で誰からも信頼されるヒーローを気取っていたいだけなんだろう。そしてそれに気付いて自分を分析した気になっているのにも嫌気が差す。まったくもって救えない。 雨が降っている。雨の日は苦手だ。 差し迫ったタイムリミットの焦燥感を思い出すからだ。今は大丈夫でも、またすぐ事件が起こらない保障はない。忙しくしていたり仲間といれば気にもならないが、そうはできない精神状態なのは明らかだし、逆に心配させてしまうだろう。それさえも受け流せない恐れのある自分が鬱陶しくて、自主早退を心に決めた。要はサボリだ。 休み時間にさりげなく出て、そして授業が始まる頃に下駄箱へ。我ながら手馴れたものだと感心する。 だがしかし、気持ちが不安定な時にやすやすと事が運んだ試しなどなかった。 「相棒?どうしたんだよ」 思わず心の中で舌打ちをする。花村だ。 「ちょっと気分が悪いから早退」 大したことはないから、と笑ってみせてもこいつはひかない。案の定、心配そうな顔で駆け寄ってこちらの顔を覗き込んだ。 「疲れてんのか?送るか?」 「いや、いいって。それよりお前なんで授業中に…」 「あー……雨の日ってなんかしんどい時あってよ、屋上行く階段でぼんやりしてたらうっかりした」 はは、と頭を掻く花村も少し覇気がない。誰しも思うところは同じか、なんて普段なら言ったけれど、あいにく今日は振り撒ける愛想がゼロに等しかった。 「そうか。お前も無理するなよ」 そう言葉をかけるのが精一杯で背を向ける。足を踏み出そうとした瞬間、ぐっと肩を掴まれた。 「やっぱお前、なんかおかしくねぇ?」 遠慮がちに、でも放ってはおけないという気持ちの篭った声。ありがたい、普段なら本当にありがたいのだ。 「大丈夫だって、心配性だな」 振り向かず明るめに答える。しかし花村はひかなかった。 「じゃあ、ちゃんとこっち向けよ」 正直、他のメンバーなら軽く誤魔化せる自信はあった、だが花村は妙なところで聡い。それが嬉しくもあり、余計だと思う時もある。 「いや、だから本当に…」 「相棒」 真面目な声が、優しさが無理だ。気付けば勢いよく花村の手を振り払っていた。止める間もなく動く唇。 「花村にはわからないよ」 言ってからしまった、と思う。そのまま去ってしまえばある意味楽だったかもしれないが、悲しいかな自分はそんなところでやっぱりお人好しだったのだ。 振り払った弾みで見ることになった花村は、とても傷ついた顔をしていた。 |