誠意


はい、室町くん。いつもの笑顔でタオルでも渡されるかのように差し出されたそれはまごうことなきプレゼント包装だった。

「あの、千石さん」

咄嗟に言葉が出ずとりあえず呼び掛けたのち、なんと伝えたものか眉を寄せる。

「確かに差し入れとかは御相伴に預かってますけど見るからに本命なやつはさすがに」

どうかと、そう濁す語尾は頼りない。甘い香りの充満する二月のイベント、そこかしこで愛想を振り撒く千石に集中するのは当然だった。義理から本命まで色とりどりのチョコレートを紙袋に詰めて楽しげな先輩の横を去年も歩いた。コンビニ菓子程度であれば室町だって気にせず受け取るし、部員で分け合うのも珍しくない。だが、一目で分かる洒落た色合いと巻かれたリボン、そんな本気の籠ったものを横取りしては罪悪感で一杯になる。千石だってそのあたりは気遣うはずなのに、止まらない思考を遮ったのは目の前できょとんとする相手の表情だった。
ぱちぱちと瞬いた彼は小さなその箱をひょいと掲げ。

「これ、俺のだよ」
「はい?」
「俺から室町くんへ」

台詞が耳を滑っていく。
何を言っているのか理解できないうちに、千石がもう一度笑い、目を細める。

「本命なのは間違ってないけどね」

は、と口から漏れた息は掠れた。

「買ったんですか、千石さんが」
「うん、最近は男が買うのも珍しくないからさあ。店員さんも親切だったよ」

女の子の視線は独り占めだったけど、と楽しげな様子は含みがある。
そんなもの今更気にしたりもしないが、相手の行動が全く理解できない。

「わざわざ」
「愛してるよってカードのほうが良かった?」

もはや片言のように呟いた室町へ畳み掛けられた攻撃で一気に体温が上がった。
この愛されることを当たり前だとばかりふらふらしている男がこんなイベントに乗っかって自ら示してくるだなんてどうして予想できるだろう。部活中のじゃれ合いで囁かれても、二人きりの帰り道で抱き寄せられてもいつもの軽薄な先輩だった。

「大丈夫、お返しは室町くんでいいよ」

だから、そろそろ俺のこと信じてね。微笑んだ瞳に浮かんだ色に思わず息を飲む。するり、と伸びてきた掌が頬を優しく撫でて誘う。

――何が大丈夫なのかさっぱり分からない。

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