貼ってみた


「あー、懐かしいな。まだやってたんだこれ」

ぺり、と音を立てて袋からシールを剥がして手に取ってみる。僕の声に顔を上げた跡部がそれを見て怪訝な顔をした。

「点数シールなんだよ、決まった点数分集めて、台紙に貼るともれなく景品が貰える」
「景品ってなんだ」
「オリジナルのお皿とかカバンとか」

説明すれば意味不明と言わんばかりの表情を浮かべ、くだらねぇと呟いた上で更に言う。

「なんでわざわざパンを買って集めるんだよ、そのものを買えばいいじゃねぇか」
「言うと思ったよ」

予想通りすぎる反応に僅か苦笑を零す。そのことに眉をぴくりと動かし不機嫌を分かりやすく示してきたので、 とりあえずもう少し説明を加えてみることにする。

「コレクターアイテムは心をくすぐるもんなんだよ。ちょっとしたお遊び、分かる?」

シールのついた指をちょいちょいと振って尋ねてみるも、不可解といった表情は変わらず、 わかんねぇ、と本気で訝しげに零すものだから思わずふきだした。するとギロリ、視線を尖らせて睨みつけてくる。
え、それって僕に怒るところ?沸点が低すぎるよ跡部、子供っぽいとかいう問題じゃないよそれ。
でもそれを口にしたら更に事態が悪化するのは目に見えているのでとりあえず黙っておく。

「ああん?だってそうだろーがよ。普通に品物買うよりも金使ってんじゃねぇのかこれ」
「理屈じゃないんだって、集めて貰うことに意義があるわけ」

もはや喧嘩腰の跡部の発言は確かにその通りなのだけれど、それこそが企業戦略だから仕方ない。 跡部だってきっとそれは分かっている。分かっているからこそなんでそれに踊らされるのかとも言いたいのかもしれない。 わっかんねー、とさっきよりも情感こもって呟かれたことにまた笑いがこみ上げる。
この上流階級の王様は、変に真面目なのだ。
ふと剥がしたまま処遇を決めかねていた指のシールを思い出し、数秒見つめる。未だ唸って考え続ける相手にに向かって指を伸ばす。

「えい」

ぺたん。額に目立つ点数シール。

「跡部、2点」

してやったりと笑みを浮かべれば、ぱちくりと瞬く相手の姿。続いてうろんげな表情。
やだな、この軽い冗談さえ通じない相手とか本気で嫌なんだけど僕。
だがしかし、いつもの表情に戻った跡部は目を細めてきっぱりと言った。

「俺様が一桁ってのはどーゆーことだ。ああ?」
「そのレベルで怒るの?」

貼ったことじゃなくてまさかの点数に対する文句にどうしたらいいのかわからない。王様の考えることは庶民にはまったく分からない。 微妙に疲れを感じつつツッコミを入れると、髪をかきあげ謎の角度で決めてきた。いやそこカッコイイところじゃないから。

「俺は常にパーフェクトと相場が決まってんだよ」
「おでこにシール貼ったまま威張られてもマヌケだと思うよ」

長いようで短い沈黙。

「お前が貼ったんだろうがああああ!!」

ぺいっとシールを投げ捨てて噛み付く跡部を放置して残骸を拾う。跡部はあれだね、ノリツッコミだよね。 言ったら更に怒られるのでやはり心で思うだけにして可哀想なシールを眺める。当たり前だけどとても使える状態じゃない。

「あーあ、2点無駄になったじゃない。酷いよ跡部」
「この一連の流れは俺に酷くないのかコラ」

びきびきと効果音がしそうなくらい引きつった表情がなんとも怖い。うん怖いね。

「君って結構短気だよね。手塚より怒る率高いんじゃないの」
「そうか喧嘩売ってんのか。上等だ全力で買ってやるよ」
「暴力に訴えるんだ、わーあとべサイテー」
「お、ま、え、な……っ」

棒読みで煽ってみせると物凄く簡単に乗ってきた。挑発に弱いよね、跡部って。
さすがに悪ノリしすぎただろうか、ぷるぷると手を出す寸前で堪える跡部の紳士っぷりに敬意を表してこのくらいにしておこう。 ちょっと反省して、本音を少し口にする。

「困ったことにそんな君といて凄く楽しいんだよね」
「は」

ぽかんと固まる跡部の顔。なかなかに珍しい、カメラを持っていないのが惜しいなあと少し思う。

「ほんと困った」

どうしてくれる?と首を傾げたらそれは嬉しそうな笑顔が返ってきた。
サービスしすぎたかもしれない。

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