ショートカットノイズ


扉を開けたらそこにライバル校の部長がいました。

いや、いましたじゃないよ。別に不思議の国でもなんでもなく――不思議の国に跡部がいたらそれはそれで凄くおかしいけど―― 一般家庭な訳で。というか僕の家です、むしろ僕の部屋です。
室内に踏み込んだ不自然な体制のまま、ぽかんと口を開けてしまう。

「なんで僕の家知ってるの」
「前に送ってやっただろ」
「ああ、雨が降ったときにね」

練習試合の帰りに天候が悪くなり、居合わせた跡部が車を呼んだ。
部員を何名か乗せたあとこちらを振り返り、そのまま僕も乗せてもらったのだ。

「アドレス交換しただろう」
「ああうん、君のところの部員を捜索したときにね」

特技、寝ること。そう履歴書に書いてもいいんじゃないかと思うくらい寝つきの悪い某氷帝部員を探すため、 これまた試合会場で行きあった青学数名が手分けして協力したことがあった。見つけたら即連絡できるように、とその場で赤外線通信をした覚えがある。
それはいい、それは確かに実際にあった出来事だ、でも違う、問題はそれじゃない。

「で、なんで僕の部屋にいるのさ」
「ダチの家にきて何が悪い」

当然の疑問は相手の主観によってすっぱり切り捨てられた。 人の椅子に腰掛けて思いっきりくつろいだ姿勢で机に頬杖までついて言ってくるものだから、 ここは怒るところなのかと数秒間悩む。
いやいや、それよりも。

「友達だったの!?」

答えが新たな疑問を呼んだ。すると微かにうろんげだった跡部の表情がみるみるうちに不機嫌に。
眉間の皺が刻まれたと思ったらめちゃくちゃ睨む、睨んでくるよこの人。

「そうじゃない家に勝手に上がりこむ俺様は何者だ」

跡部様?と首を傾げてみたら眉間の皺が増えた。お気に召さなかったようだ。

「じゃあなにか?俺様はダチでもない奴の家に押しかける図々しい奴だってのか」
「仮に友達だとしてもその態度は大きすぎると思うよ」
「仮にとか言うな」

話が進まない。なんだろう、話してる言語は同じはずなのに意思が疎通できてない気がする。
疲れた頭をなんとか回転させてどうにか突破口を探す。うん、じゃあいつから友達なんだっけ?
口に出したら今度こそ本気で怒りそうなので、できる限り記憶を反芻してみる。
確かにアドレスは知ってる、メールしたこともある。電話はあんまりしてないけど、会ったら世間話くらいはする。 そもそも1年の時から顔も合わせていたから付き合い自体は割と長い方、なんだ。

「ああ、そうか。言われてみれば、」

友達という表現はあながち間違いではないかもしれない。心の中で続きを言った。
だろ?と得意げに笑われても反応にちょっと困る。 友達だから家に勝手に上がりこんでました、この状態はどう考えても自分勝手と言うか迷惑の部類に入るんじゃないだろうか。
どうやって話を繋いでいこうかと、また悩み始めた僕など露知らず、彼は尚も上機嫌に言う。

「友人に俺と手塚がラインナップされてるんだぜ?誇りに思え」
「売り物じゃないんだから」

やっぱり話は進まなかった。

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