特攻


「土方さん、僕のことなんだと思ってるんですか!」
「大切に思っている」
「知ってますけど?!」

そんなことはとっくの昔に、それこそ刷り込みのごとく染み込んでいる。だがそうじゃない、関係が変わったつもりで結局は同じ。いつだって自分だけか望んでいるような虚しさばかりが降り積もる。吊り上げた眦に力が入り、総司の表情がくしゃりと歪む。
途端、身体を包みこんだ温かさ。両腕に囲われ、抱き締められたのだと分かるのに少しかかった。

「そんな顔をさせたいんじゃない」
「っっ、」

焦りを含んだ声が届いて胸が詰まる。相手にすがるように凭れ掛かった。

「土方さんのばか……ずるい、ずるい」

癇癪を起こした手前、素直に甘えることもできない。泣きたい気持ちなんてとっくにどこかへ消えてしまって、ただただ相手の体温を感じている。


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据え膳


ずるいずるいと繰り返した総司が黙ってしまって沈黙が落ちる。

暴れる気配はなく、凭れる重みからある程度の溜飲は下がったのだと安堵した。

幼い頃より、へそを曲げてしまえば頑として譲らないところが総司にはある。

そうなるともう根競べで、近藤の取り成しがなければ一日だんまりを決め込むことだってあった。

とかく土方へ意地を張る癖の抜けない相手は無理を隠すし、それでいて思いもよらないことを土方に望む。

からかってすり抜けて、時折素直に。繰り返し繰り返し、積み重ねた期間は長い。

甘やかすのが当然となっている現状こそが問題であると指摘されればぐうの音も出ないが、身体がそう動くのだ。

慈しんで見守って、保護者でいる自分ともうひとつ。

気付くつもりも悟られるつもりもなかった奥底の欲を晒されて、ますます悪化した。

「総司」

呼びかけると、腕の中で少し震える。大方、冷えた頭で後悔のほうが強くなったのだろう。

今更こんなことで崩れるものなどないというのに、総司はたまに謎のしおらしさを発揮する。

自ら顔を上げてはくれぬ様子と判断し、まずは頭へ唇を寄せた。

髪より直接地肌に当たるよう押し付け、背中を撫ぜる。

「総司、」

囁き落とせば先程より大きく身じろぐ。耳の近くの髪を掻き上げて、くすぐった。

「ん、っ」

堪えきれず漏れた音に知らず口元が緩み、耳朶を指で柔らかくなぞる。

鼻に掛かった声、唇を噛みそうな予感を覚えて低く告げた。

「噛むな」

「っ、」

呼吸で耐えるのを待ってやり、肩を叩く。

「総司」

呼ぶのは三度目。いつの間にか縋るよう土方の服を握り締めていた総司がゆっくりと顔を上げる。

歪んだ眉も潤みかけた瞳も、先程とはまるで意味が違う。頬の色がそれを示し、薄く開いた唇から文句が漏れた。

「ずるい……」

「ああ、お前を素直にする為だ」

今度こそ頭を撫でて顔を覗きこむと口を引き結ぶ仕草。

「ぞくぞくする、ひどい」

甘えたな音程で首へ腕を絡めてくる相手の腰をさすった。

「擦り寄られた俺が生殺しだ」



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