お疲れです


長丁場の撮影の合間、控え室に戻ったところで総司が限界とばかり椅子に座り込んだ。
体力よりもなかなか進まないことに精神が疲弊したのだろう。愛獲として表に出ているうちは決して崩さない、その誇りが頼もしい。 意識の高さを誇らしく思い、労うようにそっと肩を叩く。途端、くるりと振り向いた相手。 なんとなくそのまま頭を撫でたが、その仕草を受け入れながら違うとでも言いたげに甘えた声が響く。

「土方さぁん、ちゅーしてください」

手が止まる。見上げる目線、緩めた襟元。疲れのせいか少しけだるげな様子が誘う態度に拍車を掛ける。

「こんなところで昼間から何を言ってるんだ」

そっと髪から指を離してその場から一歩下がろうとしたところ腕ごと引っ張られた。
体勢が崩れ、総司の顔が近くなる。

「部屋で夜に迫ったら許してくれるんですか。むしろガッときてくれるんですか」
「何故脅してくる」

至近距離での低い声と鋭い眼差し。目が完全に据わっている。

「ご褒美でもないとやってられません!土方さんください!土方さん!」
「大声を出すな」

近くで喚かれては耳にくる。そもそもあまり騒いでいい場所でもない。
どう宥めるか思案しかけた矢先、絡みついていた腕がするりと離れる。
椅子の背に指を乗せた総司が早口で呟いた。

「いいです別に。我侭言ってすみませんでした」

逸らされた視線、控え室に入ってからの経過時間を考えて息を吐く。
大方、そろそろ戻らなければならない仕事に意識が向いたのだ。
褒めるべき心構えではあるが、このままで終わらせるわけにはいかなかった。
もう一度、覗き込んで呼び掛ける。

「総司」
「だって土方さん困って、」

顎を掬って続きの音は遮った。
一度だけ食んでゆっくりと離し、瞳を見つめる。

「お前に困るのなんて今更だろう」
「っっ、土方さん!」

感極まって飛びついてきた総司のおかげで椅子ごと倒れこむ羽目になった。


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