誘惑


午前中でも汗を掻きそうな気温の休日。
寝ている総司を残して家を出たところ、帰宅するとリビングがひんやりしていた。
それは別に構わない、起きるまでつけないでおこうと考えたのは土方であるし、活動を始めれば暑かろう。 しかし問題は、うろついている総司の格好だった。

「……総司」
「あ、僕のこと置いてった土方さんだー」
「コンビニくらい行かせろ、じゃなくてだな」

声を掛ければ冷蔵庫へ向かう足を止めて振り返り、開口一番いつもの通り。
すぐ戻る、の書き置きがあってこれなのだから無断で外へ出た時の反応は推して知るべし。
軽口へは乗らず、溜息を吐いた。

「ちゃんと服は着ろ」
「えー、暑い。アイス食べたいです」

着丈の長いTシャツ一枚、裾から伸びた足はあろうことか素足だった。
膝上あたりで揺れる布は十分覆い隠しているのだが、冷房の聞いた部屋で薄着すぎる。
更にアイスまで食べようという根性に呆れながら近付いていく。片手に下げたビニール袋の中身のためだ。 再び歩き出す総司の足はぺたぺたとフローリングを鳴らし、冷凍庫を開けると水色のアイスキャンディを取り出した。 ソーダ味を箱で買った覚えがあったなと思いつつ、入れ替わりで冷蔵室へ品物を移す。 扉を閉めると、アイスを咥えた総司が意味深に笑った。

「穿いてるか気になります?」

持ち手の棒を片手に左の裾をつまみ上げてみせる。
反対側の裾から躊躇なく捲った。

「あ」

当然のことだが、下着は穿いていた。
すぐに指を離せばすとん、とまた覆い隠される。
口をぽかんと開けた総司がすぐ気を取り直してつまらなそうにアイスを咀嚼する。

「土方さんは分かりやすく釣れてくれないからやり甲斐が微妙」
「何故そんな謗りを受けるんだ俺は」
「べーつにーー?」

最後の大きな塊をしゃくしゃく噛み砕き、寄せられた眉が更に顰められた。
おそらく頭に響く氷菓子特有のあれだ。むう、と唇を尖らせ棒を弄ぶ横顔へ指を伸ばす。
掴んだ顎、覗き込む瞳は先ほどと違う驚きに染まる。

「昨日のは不服か?」
「っ、その聞き方はずるいと思います」

息を飲んだのも一瞬で、すぐさま恨みがましげな眼差しに切り替わった。
この負けん気こそが煽るのだと何故分からないのか。

「そう聞こえた」

ますます拗ねが濃くなる総司の顔は昨夜の表情と重なって。

「僕だけ欲しいみた、」

最後まで言わせず、唇を塞ぐ。


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