いただきます


ぺりり、とプラスチックの容器から蓋を剥がす軽い音。上面を覆っているチョコレートを付属のスプーンでつついてみる。
硬い。透明なよくあるコンビニのスプーンでは力不足だろうか、台所から金属のそれを取ってくるべきか悩んでいると
飲み物を運んできた土方があからさまに眉を寄せた。

「ピザを開ける前にアイスを出すんじゃない」
「えー、だって食べたいです」

チョコを削るのを一旦諦めて机に置くと、土方の手からグラスを受け取ってお茶を注ぐ。
冷やした麦茶は出てる分だけ。冷蔵庫には水も紅茶もあるけれど、食べたらまた沸かさなくては。
ついてきたおしぼりで手を拭いて、土方が箱を開けるのを待つ。
Lサイズ一枚、4種類が二枚ずつのクワトロタイプだ。オーソドックスなミックスにシーフード、コーンマヨにチキンポテト。 家族御用達といった感じのラインナップは最早お馴染みである。
耳の部分はウインナーが包まれたぶん厚みがあり、食べ応えは十分だろう。
総司はクリスピータイプを好むのだが、このオプションが発表されたときの土方の反応を見逃さなかった。 とろけるチーズが練りこまれているものも気に入っていたし、顔に似合わずジャンクフードをよく食べる。 コーヒーショップではブラック一択の人とはとても思えない。
ほかほかピザの箱に近づけたアイスを確認、スプーンを刺すとさっきよりだいぶ柔らかくなった。やはり夏は暑い。 チョコレートごと下のバニラを救って一口。するりと溶ける甘さと爽やかさに頬が緩む。

「こら、」
「だってせっかくいい感じに溶けたのに。はい、土方さんも、あーん」

くるり、かき回して相手へ差し出す。ぐ、と身構えたものの、口元まで近づければ案外あっさり唇を開いた。
咀嚼して飲み込むのを待って微笑む。

「美味しいでしょ?」
「飯の前に甘いと、どうもな……」

味が混ざる、とでも言いたげな様子に笑いながら自分の口に運ぶ。

「あ、先食べちゃっていいですよ?」

蓋を開けてしまえばあとは冷めるだけだ。じゃがいもなんかは特に熱々の方が美味しいに決まっている。 促したのち、三分の一ほど食べたアイスに意識を戻そうとして手首が掴まれた。
近づく顔に反射的に目を閉じる。

「ん、」

開いた唇の隙間から舌が少しだけ入ってちゅくりと絡む。
やけに熱く感じるそれにぞくぞくしたのも束の間、すぐに離れた。

「やはり冷たいな」

真顔で言ってのける土方に当然だろうと言いたくてたまらない。
思わず強く握ったプラスチックの容器は少し歪んだ。

「もう、アイス溶けちゃう」

唇を尖らせながら、もう一度だけ瞼を閉じる。


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