お怒りですか


無味乾燥な白い箱。畳の上に鎮座ましましたそれを挟んで向かい合う。
座れ、と促されて正座するのはお説教の気配を感じたからだ。
眉間に皺を寄せた土方が開口一番。

「使ったのか」
「明らかに未開封じゃないですか、箱ですよ」

厳密に言えば箱は開いているのだが、中の商品は包装のままである。
分かりやすい桃色のそれ、形状からして使用目的は一瞬だ。
総司の悪びれない――そもそもそんな必要がない――即答に深々と溜息を吐く目の前の恋人。

(…………そんなに怒らなくても)

とかく土方は堅物だ。身体の関係に持っていくのだって総司の根気と努力と執念の力押しだった。
大人しく沙汰を待ちつつも、拗ねたい気持ちが膨れ上がる。
もう謝って話を終わりにしてしまおう、そう考えて口を開こうとしたその時。

「俺では不満か」

吐き出された苦い呟きに目を瞠った。

「そっち?!!!!!」

思わず大声を上げれば土方の眉間の皺が更に深くなり、むう、と口を噤んでしまう。
胸の奥から湧いてくる愛しさをそのまま言葉にする。

「土方さんかわいいっっ」

箱を弾き飛ばし正面から抱き付いた。勢いが強すぎて呻いた相手はそれでもしっかり受け止めてくれる。 首へ両腕を絡め、覗き込むように顔を寄せた。何事か、と狼狽する様子が可笑しい。

「もう、僕が土方さんしか欲しくないの知ってるでしょ」

緩んだ笑みを向けても反応は芳しくなく、それが更に愛くるしさを誘発させる。

「ますますわからん、って顔」

鼻先へ軽く噛み付いて、ちゅっと口付けた。

「おもちゃなんかどうでもいいから、満足させてください」


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問答無用


「いや、しかし」

まだ踏ん切りがつかないのか言葉を濁す土方はそれでも総司を引き剥がせない。焦れた総司は眼差し鋭くねめつけ、低く問い詰める。

「僕が欲しいのに僕以外を抱くつもりですか?土方さんはもう僕のでしょう?あんなに求めてくれたのを気の迷いみたいに思わせないでください」

喉の奥で呻いた土方に眉尻を下げ、ホールドした片腕へ擦りついてしなだれ掛かる。肩口に胸板が当たり、次いで首から凭れて頭が乗った。ごろごろと甘える仕草で拗ねた声音。

「身体中の跡だってもう消えちゃった、キスどころか触ってもくれないなんてひどいです」

触れる部位へ散らせた紅はひとつふたつでおさまらなかった。それこそ押し付けてくる腰の、否、足の付け根へも鬱血を残したはすだ。あまりの惨状に渋面を作るどころか、ただ幸せそうに微笑んだ総司。その顔と、今の物憂げな表情が重なる。

「僕は土方さんのじゃないんですか」

勢いに任せて身体を反転させ、相手を壁へと押し付けた。足の間に割り入れた膝は悩ましげな吐息を生み、思わず喉が鳴る。

「どうしてお前はそう煽るんだ」

途方にくれて呟くと、艶やかに微笑む総司が優しく指先で頬に触れた。

「理性が邪魔だからに決まってるでしょ」


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