あなたのもとへ


いつもの面々と別れての帰り道、屯所の入り口で見慣れた背中を確認して声が弾む。

「あ、土方さん戻ってるー。お帰りなさーい」

足早に駆け寄ると相手が振り返り、総司の姿を視界におさめてから眉をしかめる。

「またふらふら出歩いてたのか」

「ちゃんと見廻りしてましたよー」

うろんげな視線は明らかに信じていない。
本日は行く先々で龍馬と猫を眺めたり、桂の発明品に茶々を入れたり、高杉の揚げ足を取ってみたりした。町を回った自体は嘘ではなく、つまらない小競り合いに水をかけて他の隊士へ押し付けたから仕事もしている。

「僕がいなくて寂しかったですかー?」
「馬鹿いえ」

ふふっと笑って見上げれば即答。僅かな違和感に瞬く間に、取り繕うような土方の言葉。視線が一瞬だけ戸惑ったのを見逃さなかった。

「早く戻らねば拗ねるのはお前だろう」
「なのに帰ったら居ないから気になったんですよねー?土方さんかわいーい!」

勢いのまま胸へ飛び込むと、しっかり受け止めてくれる腕の力。

「こら、こんなところでくっつくな」
「じゃあ部屋でもっとべったりします」

すり付きながら甘える声に、ぐ、と詰まる音。絡めとるよう腕を組んで、歩くのを促した。無言で移動する土方の表情は渋いが、怒りや不快でなく自嘲がほとんどだと知っている。難儀な男だ。

「土方さん」

呼び掛ければすぐに総司へ向けられる視線は困りながらもやはり優しい。嬉しくなって顔が緩む。

「僕もただいま」
「ああ、お帰り」

頭を撫でる手が自然に触れて、微笑んだまま歩みを進める。


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