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屯所における土方の私室、二人揃って座すのは珍しいことでもないが、本日の空気は重苦しい。美しい正座で向かい合い、土方を恨みがましげに見つめてくる総司の視線が痛かった。

「俺はお前が可愛い」
「知ってます」

硬い声での即答に思わず唸る。傍から見れば馬鹿馬鹿しい会話でも、この場合は取っ掛かりの却下だ。むう、と渋い顔を作る土方にますます眉を寄せて総司が口を開く。

「僕が可愛くて可愛くて仕方がない土方さんはじゃれ合い程度とか酔った勢いのキスはできても欲情なんかしませんもんね」

吐き捨てる勢いは刺々しく、自嘲が重ねられて表情が歪む。瞳が不安で揺れるのに焦燥を覚え、言葉を発しかけるも続いた吐露に遮られた。

「分かってて土方さんがいいって言ったのは僕です。縛り付ける権利なんかないし一生禁欲とか強いる気はありませんし、別に」
「総司」

いよいよ声まで震えたところで強く呼び、止める。びくりと肩を震わせた総司の顔色は心なしか青く、膝に置いた手が袴に皺を作っていた。

「そんな顔をして言うんじゃない」

責めるつもりはなかったがそう聞こえてしまっただろうか、身を硬くする相手に焦燥を覚えながら言葉を選んでいく。

「いや、俺の態度が悪かったのは認めよう。だがな、お前を選んだのも俺だ、総司」

不安げな視線が上がるのを捕らえて、まっすぐ告げた。

「お前以外を抱く気はない」

大きく見開く瞳、憂いも何もかもが吹き飛んで停止した表情が数秒置いてじんわりと染まった。耳まで紅くし、袴を掴む指も落ち着かない。総司の態度に当てられて、土方の言葉まで途切れがちになる。

「その、いつも通りのお前にいきなり手を出すのは俺としても躊躇われてな」
「はあ?!」

紅い顔のまま、聞き捨てならんとばかり乗り出してきた相手は畳を手袋越しに叩く。

「土方さんが自制すればするほど難易度が上がるんですけど?!」

勢いに思わず後ろへ傾ぐと忌々しげに舌打ちする。

「ちっ、さっさと夜這いかけて寝巻きひん剥けばよかった」
「お前な……」

身も蓋もない言い草へ呆れた声音になったところで不満の眼差しが注がれる。先程の泣きそうな瞳を思い起こして罪悪感が襲う。

「うっ」

唇を尖らせ、じっと見つめてくる総司に降参した。

「わかった、準備をさせてくれ」
「心の?」

それを問われる側が自分だということが精神を苛む。なんとか堪えきって口にする言葉も抵抗があった。

「必要なものを揃えるんだ」
「本当に?」
「ああ」
「本当の本当に?」
「約束する」

いつの間にか見上げる位置まで這って来たせいで距離が近い。しかし後ろに下がっては機嫌を損ねる。むう、と唸る総司はまだ納得いかない顔だったが、それ以上の詰問はなかった。

解けきらない緊張をどうするか悩んだ矢先、目の前で白い手袋が外される。両頬が包まれたあたりで我に返り、体温へ戸惑うより早く掃除の唇が顎に触れる。次いで頬、鼻、額と伸び上がって、最後は口元へ触れてからぺろりと舐めた。

「総、」

 途端、膝に押し当てられる箇所。

「!?」
「大人しくしてください」

股間を自ら擦り付けながら、再度触れてくる唇は頬を吸う。ちゅう、と響く音が脳を痺れさせ、かすれた息で総司が囁く。

「ちゃんと僕に興奮するって証明してくれたら引いてあげます」
「っっ、」

今日のところは、と付け加えられたのを皮切りに忍耐を試される責め苦が始まった。
 

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