絡む


ここはどこだろう。見渡しても白いばかり。
自分の存在さえ見失ってしまいそうな一色の世界の中、手のひらに赤い紐がひと束。
広げてみる。伸びる訳でもなく、普通の紐だった。
首を傾げながらとりあえず歩いてみたところ、見知った相手が現れる。
今まで影も形もなかったのにどういうことなのか。
不思議に思いながら、駆け寄っていく。

「信助!」
「あ、天馬。どうしたの?」
「ねえ信助、この紐なんだけど」

とにかく目の前の疑問を解消したくて先ほどの紐を見せることにする。
しかし、一度視線を手元に落とした信助は意味がわからないという様子で首を傾げた。

「紐なんてどこにあるの?」
「え?」
「え?」

聞き返して一瞬お互いに止まる。
理解出来ない天馬が目を瞬くと、少し離れた場所に違う友人の姿。
思わず走り出した。

「ごめん信助!」
「ちょっと天馬?!」

戸惑った相手の声を後ろに聞きながら、次に目指すのは狩屋。
これまたいつ現れたのか、この空間に疑問を持たないか等の一切を無視して天馬は両手を示す。

「なーに?天馬くん、裸の王様ごっこ?」

おかしそうに笑う様子に嘘は見えない。ますます訳がわからなくなってしまった。

「キャプテン!」
「どうしたんだ?天馬」

「霧野先輩!」
「ん?何かあるのか?」

「円堂監督!」
「なぞなぞか?」

誰に聞いても尋ねても、返ってくる答えは同じ。
お前は何を持っているんだ?と聞き返される。
答えられない、わからない。これが何か一番知りたいのは自分の方だ。
途方にくれてとぼとぼ歩いていると、見慣れた背中が見えた。
思わず飛びつくように相手に駆け寄る。

「剣城っ!」
「松風…、っ?!」

振り向いた表情は天馬の勢いに心なしか引いていたが、些細なことだった。
息を整えて両手を握り締める様子を見下ろして、おもむろに口したその言葉。

「何持ってんだお前、」
「つるぎ!」

そんな必死に、と続く声を遮った。
何事かと怪訝な顔の剣城に勢いのまま抱きつきにかかる。
手から零れ落ちた赤い紐がしゅるんと広がって剣の指へと絡み付く、続いて天馬の指にも緩く巻き付いた。
僅か数秒の出来事に固まる二人。やがて天馬が自らの小指を見て思い出したように叫ぶ。

「そうか!運命の赤い糸だ!」

謎が解けた!そう嬉しそうにはしゃぐ天馬をよそに、剣城は困ったような表情を浮かべている。
どうしてかと問いかけようとして、視界が白く染まった。

次に瞼を開いてみれば、ベッドの上。
片手を動かして小指を見る。あるわけがなかった。
気になるのは、夢の終わり際のあの表情。

どうしてもモヤモヤするのだから仕方がない。
なんとかなるさ方式で直接聞いてみることにした。
登校中、剣城を見つけて突撃をかませば、当たり前のように避けられる。 バランスを崩しかけたところを引っ張って立たせてくれるのなら最初から受け止めてくれればいいのにと天馬は本気で思う。
呆れながらも隣を歩くのは許容する優しさに、くすぐったいものを感じながら思い切って聞いてみた。

「剣城は俺と一緒にいるの困る?」
「はあ?」
「今だけじゃなくて、ずっと一緒とかは困る?」
「…何をいきなり」

――あ、夢と同じ顔。

何言ってんだこいつ、というような表情から反応に困ったような顔になった。この顔だった。
にらめっこみたいに見つめ合う時間は長かったのか短かったのか。根負けしたのは剣城が早かった。

「困ったところで、お前は引かないだろ」

溜息と共に吐かれた台詞は柔らかい響きを持って耳に届き、そっぽを向いてしまった相手が気まずそうにしているのを見て それが遠回しな自分への肯定だとようやく気付く。運命の人は素直じゃない。

「じゃあ、ずっと剣城といる」

機嫌よく宣言したら、隣が思い切り咳き込んだ。


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