抱きついてみた


やけに窺うように近づいてきたと思えば、そっと後ろから抱き締めてくる、腕。

「どうした神童、珍しいな」

あまり積極的には触れてこないところが相手にはあり、
もどかしさよりも納得の方が勝つのが本音だったりする。
肩越しに視線を向けるも俯きがちなその顔は見えず、困ったみたいに口篭った。

「いや、その」
「うん」
「なんとなく」
「なんとなく?」

やっと頭を少し上げてくれた神童が、視線を外したままぽつりと言う。

「こういうことが気軽にできるのは羨ましいと、思って」
「ふは、」

思わず笑いが漏れた。
こちらの反応に赤くなってしまうのがますます微笑ましく、頭へ手を伸ばした。

「気楽に抱き締めてくれないのか?」
「霧野が構わないなら」
「いいに決まってるだろ」

ようやく笑ってくれた神童の額へこつんと当てる。
くすぐったくて、温かい。


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