抱きついてみる


「かーりーや!」
「うわっ!」

後ろから飛びかかってきた先輩は、脇の下から両腕を突き入れ自分をホールド。
無駄にスキンシップの多い雷門で信助や天馬にじゃれ付かれたことはあるが、このやり方はさすがに驚いた。
ただ飛びつくだけのほうが幾らかマシだと思う時がくるとは思わない。

「これ普通にびびるよなー」

やっておいて他人事のように間延びしたセリフ。
どこまでも自由な相手に頭痛を覚えながら振り向かず進言。

「神童センパイにでもやってください」
「あいつはいまさら俺が何してもあんまり驚かないぞ」
「アンタあの真面目な人に何してきたんですか……」

幼馴染の苦労を垣間見て同情心が芽生えてきそうだ。
とにかく離してくれないかと言いたい狩屋を置いて、彼は尚も話を続ける。

「大体この手のものは反応を見たい相手にするって相場が決まってるだろ」
「おもちゃですか」

さすがに言った。自信満々にからかいました宣言をされて文句が出ないのも難しい。
何かしら構ってくるのは仕方ないにせよ、遊ばれる筋合いはなかった。
もう振り解こうと力を入れかけたそこで、聞こえた追い討ち。

「まあ抱き締める口実にもなるしな」

硬直する。ぴきーん、と全身かたまった狩屋を抱えなおし、頭の辺りにほおずりする霧野。

「よーしよしよし」

髪に埋もれて届く音は甘やかすようで、完全に好き勝手であるのにやはり動けない。
熱くなってきた顔と逃走不可の状況を憂いながら、ただ抱き締められている。


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