抱きついてみた


「雪村、つーかまえたっ」
「うわああああああああっ!」

微かにわいた悪戯心、後ろから抱き付いてみようというささやかな思いつきは予想外の絶叫を生んだ。

「……そこまで驚かれるようなことしたかな、僕」

思わず聞く、声のトーンも真面目になる。

「完全に気ぃ抜いてたんですよ!」

腕の中で少しもがく雪村は、深く!とでも叫びだしそうな勢いだ。
何より発言の内容が聞き捨てならない。

「雪村、僕といる時は気を張ってるの…?」
「訳わかんないショック受けないでください」

少なからず動揺した瞬間、素に戻った指摘が入る。
訳は分かると思う、いきなり冷たくなる相手の方が自分には分からないし寂しい。
なんだか納得がいかずに抱き締めたまま擦り寄ったところ、身体が僅かに緊張する。

「ていうか、センパイ、いつもいきなりすぎる…」

か細くなる声、今度はどんな地雷を踏んだのか思考を巡らせるうち、染まり始めた色に気付く。
やがて耳まで帯びてくる赤に何度か瞬き、こみ上げてくる愛しさで後頭部へ口付ける。

「ごめんね?」

そのまま囁くと、べつに、と聞こえる声。

「次からはちゃんと前からいくよ」
「だからそうじゃないです」

結局振り向いてくれない相手を覗き込み、怒られながらキスをねだった。


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