抱きついてみる


ふわり、と覆ってくる体温が相手だと気付くのに、多少の混乱から数秒の時間を要した。
そもそもこんなことをする奴も限られている。何故かたまってしまったのかを悩みながら確信を持って呼んだ。

「どうした、シュウ」
「あ、わかるんだ」

すぐに少しだけかかる体重、と茶目っ気の乗った声。
形の違う雲を見つけたとか、そのくらいの気軽さで発した音は嬉しさも含んでいて。

「そんな無防備に寄ってくるのはお前くらいだろう」
「……白竜、友達いないの?」
「どうしてそうなる」

ただ事実を伝えただけであるのに、切り返しが無駄に真剣めいた感じがすることに意義を申し立てる。
どうやら冗談だったらしく(シュウは意味のない戯言を混ぜることが多い)背中のあたりからくすくす笑いが零れる。
別にこのくらいで気分を害しもしないが、何が楽しいのか、とは思う。
やがて気が済んだのか、額を柔らかく当てて、ぽつり。

「触れられるって、嬉しいなあって」

緩く回された腕をすぐさま外し、振り向いてしっかりと抱き締めた。
衝動ではあるが間違った行動ではない。

「早く言え」

一瞬、目を見開いたシュウが、表情をほころばせる。

「ふふっ」

今度は声を上げて笑い始め、とうとうおかしくなったのかと(元々普通ではないが)背中を撫でながら好きにさせる。
涙まで浮かべて笑ってくれた相手は、目を細めて肩口へ凭れた。

「白竜は優しいね」


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