抱きついてみる


目標捕捉、助走をつけていざ参らん!と思った矢先、突如うずくまる相手。
乗せた勢いはそのままに慌てて駆け寄った。

「速水!」
「浜野くん」

振り向いた顔はいつもの様子で、安堵しながら一緒にしゃがみこむ。
どうやら靴の中に小石が入っていたらしく、思い切り踏んだとのこと。それは痛い。
隙間へ入り込むあれは油断するとなかなかの凶器だったりもする。

「かかえる?かつぐ?」
「いいです」

問題なく立ち上がる速水は復活が早い。
ジャンプするよう自分も立ちながら主張する。

「好きな子かっこよく運ぶとか夢じゃん!」
「そうですか」

至極つれない相方は淡々とした返事をくれた。
絶対零度だとかならリアクションも取りやすいが無反応はなかなか寂しい。
ちぇー、だの口を尖らせたところで速水が疑問符を浮かべる。

「ところで、俺に用があったんじゃないですか?」
「ああうん、後ろから抱き付こうと思ってー」
「は、い?」

ぺろっと喋った計画に表情が止まる。
次いで、はー…と溜め息が聞こえ、眼鏡を押さえながら呆れた態度。

「俺としてはまだ前からのほうがありがたいです」
「はやみ積極的ー!」
「ちがいます」

切り込んだ口調が強めだったのがツッコミでしかないのかはともかく、希望通り前から抱きついた。


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