愛は砂糖でできている、か?


抱き締められてしばらくが経過、微妙に中途半端な体勢で痛くなりそうなので顔を覗くように視線を上げてみる。
ぱちり、絡まった視線ののち、頬をすり寄せたかと思えば口元をおもむろに舐められた。
一瞬の温かさ、すぐに襲う湿った部分へあたる空気の冷たさ。一瞬震える感覚とほぼ同時、呟かれた平坦な言葉。

「あまくない」

よりによって真顔だった。

「頭どうかしてんですか。あ、元からでしたか」
「聞いといて自己完結は感心しないな」

素で問い返すと心外を含ませて返事がくる。この男の頭が沸いてるのも今更の話だ。
呆れる選択肢しか持ち得ない自分の視線を流してなんてことのないように話を続けてくれる。

「よく言うだろ、甘い時間だの、そういうの」
「言わんとするところはわかりますが何で舐めて確かめますかね」

要はあれだ、キスの味だなんだでキャッチコピーだったりするよくあるフレーズの検証とみた。
そんなもの普通に考えれば言葉のアヤであり実際の感覚へ繋がるわけでもない。
わかっていて実行したのならボケとしか言いようがなかった。

「俺にとってお前は甘いのかな、って」
「違ったんでしょ」
「いや、」

なおも淡々と説明を重ねるのを遮る形で突っ込みを入れる。
しかし、予想に反して否定が落ち、自然な仕草で唇が寄って。

「ん、」

思わず漏れた声と小さなリップ音。目の前の瞳はそれはもう嬉しげに細められた。
囁きが届く。

「すごく、あまい」
「……それ意味合い変わってませんか」

もはや文句の気力もなく見つめ返す。じわじわと上がる体温はどうにもできない。
ふ、と笑みを零す相手が両頬を包み込んだ。

「いーんだよ」

この男こそ、常に溶けた砂糖のようだと思う。


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