手の上の惨状


責任を持って最後まで、生き物に対しての責任はさもありなん。
飼い主になった覚えなど全くないけれど、関係を否定できる立場でないことはさすがに認めている。
そこを流したらさすがにどうだろう、飽くほどやり取りした言葉遊びの中で口にしたような気も少し。
余裕のある時は笑ってかわし、切羽詰まれば本気で受け取る。中間の見当たらない相手はしかし、めげるようでめげなかった。
それは最終的には戻ってくるとでも思っているのか、手放すつもりなど皆無だから選択肢すらゼロということなのか。
考え続けたところで現状の先延ばしになるだけである。体感時間として長い長い現実逃避を追えた倉間は対象人物に視線を落とした。

――まあ、ほんと、ここまでよく。

心のセリフまで途中で切れるくらいの呆れ。
座ってる体勢に対して斜めに抱きつく器用な技をかましてくれた南沢は、そのまま寝こける見事な酔っ払いだ。
思えば当初は随分と気を張っていたのかもしれない。それこそお互いに。
崩れ始めたのはいつだったか、明確なスイッチを聞かれると困るが、じっくり少しずつ、ミリ単位どころかミクロ単位で傾いていったように思う。
片側だけが重くなった天秤の皿が落ちてしまったら、保つのなんて出来るはずもなく。
完璧だと思っていた先輩は案外大人気なくて、なのに取り繕うのは無駄に上手かったりして、自分で作った防御壁に苦しんだりもして。
酒だってそうだ。プライドのくそ高い相手が泥酔とか本来ならありえなかったはずなのだ。
いつだって余裕を、いつだって逃げ場を。それは臆病な彼の、失敗を恐れる彼の最後の砦ともいえた。
その堅牢な要塞が、少しばかりつつくだけで水をかけた砂の城みたいに。
開き直ると解放は凄まじく、あっという間に手持ちの偽装を投げるようになってしまった。
穏やかすぎる寝息に鼻をつまみたい衝動に駆られる。実行すると、間抜けな声。
すぐに離して頬を撫でた。途端、すり寄る動きと緩む口元。つねってやりたい気持ちをギリギリ抑える。

「……許しすぎ、だろ」

これだけ曝け出されて、悪い気分なんて論外だ。


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