じゃれあう夜


「こっちむーいて」

呼びかけの通り向いてくれた相手は鬱陶しそうな態度全開ときた。

「まさしくなんだこいつ的な表情をどうも」
「アンタ自分が発言して許されるセリフ認識してくださいよ」

言論の自由をいきなり制限され返事に窮するが、ここでめげていたら倉間は攻略できない。

「かわいげは必要な時もあるだろ」
「そういう計算は口に出さないほうがいいと思います」
「お前にこそさっきの要素はいるんじゃないかと」
「もって生まれてないんですいませんね」

てごわい。至極、とても。
鼻を鳴らす等の馬鹿にする仕草さえない冷たい響きは門前払いの様相だ。
むしろここまでつれなくしておいて同じベッドの上な事実が一番の謎といえる。
軽く挙手。

「不機嫌ですか」
「機嫌良く見えるんですか」
「どうしたら治りますか」
「自分で考えてください」

問答終了、最早デレないことが意地のレベルか。
ついに視線さえ外してそっぽを向き始めた相手にさすがに困った。
目の端へ映るもの、数秒の思案。這い寄る体勢から身体をずらすと気まずげな表情。

――ほら、これだ。

すげなく口を噤んで後悔するなら、ひとかけらでもくれればいい。
そんな不器用さこそ愛しく思う己の馬鹿さ加減に呆れつつ、先程の案を実行する。
ばさあっ、と広がる掛け布団。突然の展開にキョドる倉間を布団を羽織って抱き締めた。
押し倒す形になって、体重を慌ててずらす。見下ろした相手は横向きに顔を埋め表情が見えない。

「倉間」

呼ぶより早かったのか同じくらいか、肩を強く引かれがくん、と落ちる。
密着する体温と背中に回る腕で抱きつかれたのだと理解した。
潰したくはないので抱擁ごとくるり、転がる。ますます擦り寄ってくる感触と腕の力。

「甘えてくれますか?」
「……最初から」

ずっと、と聞こえた声はくぐもって、抱き合う感触に口元が緩む。
拗ねたその顔を見せてくれるまでとりあえず頭を撫でると決めた。


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