上手に間違えて


押しが強いかと思えば変に諦めの早い目前の相手は、いつも何かと戦っている。それが矜持だったり理性だったり気遣いだったり様々な感情の複合であることくらい、さすがに分かった。首を傾げて見せれば困り笑い、問いかけても優しく撫でる。呆れるほどに甘いのだと、今更ながら。
拒否なんてした覚えもなければ、そもそもきっかけさえ見当たらず、受け入れる前提がないかの如く進められるのは気分を害した。
迷うような手が動いても、結局は同じ部位を辿る。あからさまな触れ方を避けすぎてもはや不自然に近かった。頬へ手のひらが当たるのさえ窺う仕草、視線が絡んで目を閉じると安堵する気配。

「馬鹿にしてんじゃねーよ」

唇から零れた音にぴたりと止まる。うっすらと瞼を開けた。肩へ乗った指が分かりやすく戸惑って、見つめる瞳が焦燥を映す。

「南沢さんさあ、俺のこと」
「好き」
「だいじ?」
「めちゃくちゃ」
「ふーん」

重なる言葉は必死と疑問、片腕だけを腰へと回して覗き込む。

「優しく襲ってくれとか言いましょうか」

背中に当てた手へ伝わる震え、肩を掴む指の力。
再度寄ってくる顔に浮かぶのは堪えきれない奔流のような感情。迎えるていで、頬を指でなぞった。

「いいんですよ、そうやって、」


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