唇から魔法


口癖のノリで言われてる気がして流せるようになってきた。
いちいち飛び上がっても噛み付いても身が持たない上、何よりその後の楽しそうな顔が鬱陶しい。
喜ばせる要素をひとつでもなくしてやろうという試みは、受け入れた形になった時点で無駄でもある。
もう諦めのスイッチを入れてどのくらいか。よくもまあ飽きずに繰り返せるものだ、腕におさめられてからの該当単語は既に10を超えた。
ちら、と視線を向ければ何を勘違いしたのか目元へキスを落として満足げに一言。

「ん、かわいい」

通産12回目、数えてしまったあたり自分は暇かもしれない。
思わず零れ出る、長く疲れた溜め息。額の髪がのけられて唇が当たる。

「いや場所とかじゃないんで」
「知ってる。俺のキスなら好きだもんな」
「すげー自信」
「それはもう」

覇気のないツッコミも意味は通じず、棒読みで返す心境を何文字で表すべきか。
上機嫌が止まらぬ相手の鼻をつまみにかかる。抵抗ゼロでいらっとした。
すぐに離す指へ唇が寄り、次いでねだるように尖らせてきた。最高潮の苛立ちを記録。

「アンタの方がよっぽど」

噛み付いてから薄く目を開け、舌先で唇をくすぐってなぞる。
表情を固まらせて喉が鳴るのを確かめやっと楽しくなった。

「かーわいい」


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