聞いて、取り返しのつかなくなる前に


「あの、さ」
「はい」
「ほんと、無理な」

気まずいくらいの沈黙を破る、大人しい答えが焦りを早めた。途切れ勝ちな言葉は主語を抜いて誤魔化すみたいに落ちて、不自然さを際立たせていく。抱き付いた力は最低限で情けなく、それでも腕を回すのをやめられなかった。

「お前涼しい顔してるけど、俺は限界」
「いや、その」

表情も見られず肩口に囁く。しどろもどろな相手がもどかしい。中途半端な優しさは辛いだけだ。

「好きって意味わかってんのか」
「だから、」
「だから!」

変わらない口調のテンポに顔を上げる。重ねられて詰まった倉間の不服な瞳を覗き込む。

「キスさえ我慢してんのどういうことか分かれよ」
「知りませんよ」

非情な遮りは思ったより強く聞こえて、睨みながらもばつが悪そうに両手が頬を包む。

「勝手に耐えといて」

なんなんですか。
吐息の混じった声は押し付けてくる唇に消えた。


戻る