やさしくしてくれるかな、もうちょっとだけでいいから


別に毎回毎回あしらわれているからといって邪険にされたなんて思わない。倉間のそのような気性を含め好いていればこそ、今がある。満たす気持ちは日々あふれるほど。幸せ、だとか一言で済ませるのは癪だった。
噛み締めて過ごす平日の夜、キリよく読み終えた本を閉じたあたりで風呂上りの倉間がリビングへ。時計を見ればそれなりの時刻、自分も入れ違いでと腰を浮かす。立ち上がった直後、近くに来ていた相手と目が合った。タオルを首へかけた倉間は口を開いて閉じ、また開き。ややあって歯切れの悪い様子で呟く。

「南沢さん、なんか今日、」
「どうした」

こんな時、急かしても相手が困るだけだ。言えるまで待つ気概で望むことにしている。さんざん視線を彷徨わせるのは構わないが湯冷めしないだろうか。ぼんやり考えるうち、意を決したように唇を動かした。

「かまって、こないなって、思って…」

思わずたたらを踏む。

「なっ」

脳内で物凄い地震が起こった。
言葉の意味を飲み込むことを頭が拒否したようで、ぐらぐら揺れる思考に襲われる。
遠慮がちな指が袖を掴む。寄せられる体温は馴染んだものだが、擦り付く動きと視線が問題だ。

「や、くらま。明日は二人とも朝から」
「いつも気にしないくせに」

――お前なんなんだ!

叫びたい気持ちで一杯だ。普段の態度からして、態度からして、態度からして。

「やだ、南沢さん、いまがいいです」

甘えきった声色に腕が動いた言い訳は出来ない。


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