熱の指先


「えい」

むに。実際に音がしたわけじゃないが、そんな感じで頬がつつかれた。むしろ指がめり込んでるに近いというか、たぶん一歩間違ったら痛い。事実、何度かそういう目をみている。これからもみせられる気がする、強制的に。
つーか、えいじゃねーよ可愛い掛け声してんな可愛いけど違う、そうじゃない。

「何がしたい」
「すましてる奴見ると膝カックンとかしたくなりません?」
「この前のはそれか」

素で突っ込むと素で返った。被害者にそれを聞くとはいい度胸だなお前。

「だってアンタさー、油断しないと隠すの上手いし」
「お前が言うか」

よりにもよってお前が。勝手に自己完結して自滅してくるくせに。こっちがどれだけ振り回されて引き寄せて捕まえたと思ってるんだ。そしてそろそろ指を離せ。どんだけ間抜けな場面だこれは。不満そうに口を尖らせて、余計にぐりぐりと頬を押してくる。

「こら」
「なんか、なんかむかつく」

ぱしり、指を掴んで引き剥がす。そんなに勢いよくしたつもりもないが、何故かびくっと震える相手。
瞳に少しの不安が走る。
怒ってねーよ、怒るかよこれくらいで。今更。
僅か目を伏せて人差し指へ口付け、今度は動揺したのを笑みを浮かべて見やる。

「こんなことしなくても構ってやるよ」

触れるならそんな口実じゃなく、素直に手を伸ばして欲しい。


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