きちんと愛しなさい、この愚か者 ぐ、と堪える気配を感じ、倉間はあからさまな溜め息を吐いた。 すぐさま慌てたように離そうとするのを服を掴んで引き止める。睨みつければ、困ったような視線が絡む。 いわゆる甘い雰囲気からの発展は、キスのあたりで南沢の自制による強制終了が行われる。 一度目二度目は倉間自身もテンパりの方が勝って、妙な間をとった挙句に誤魔化すなんて流れもあった。しかしかれこれ両手の指以上重ね、明らかに物足りなげな顔までしておいて解放されれば段々とフラストレーションも溜まってくる。 焦れて噛み付けば眉を寄せ、舌先で舐めれば肩を押された。勝手な我慢大会を主催してまで抑える理由がわからない。 いまだって、そう、掴まれたのを振り払えもせず息のかかる距離でただ沈黙。 見つめる瞳は雄弁に欲を滲ませているし、擦りよってみれば鼓動も伝わる。 思ったより早いその音に、また息を吐きたい気分になった。 今更こんなことで怯えるなんて、らしくない。 そう考えて、何をもって『らしい』のかを自己反芻。 自信満々で(それは努力に裏付けられた) ふてぶてしく(弱みを見せることを彼は好まない) 己を曲げることのない(選んだ道を後悔も否定もすることなく) そんな相手の背中を見据え、追いかけ、隣に並ぼうとしてきたのだ。 巡り巡ってこの関係、喜びこそすれ疎む理由は露ほどもなし。 執着も憧憬も尊敬も全て占めておいて、怯むことこそ侮辱である。 両手を滑らせるよう頬を引き寄せていく。相手の喉が鳴った。 「欲しがるなら中途半端やめてくれません?」 突き落としたからには、相応の。 「俺、アンタのこと好きなんですよ」 見つめる瞳の色が濃くなって、誘う唇がようやく塞がれる。 舌の感触に溺れながら、相手ごと後ろへ倒れこんだ。 |