キスで逃げ出す ひとつ得れば、また先を望む。 それさえあったら、なんて叶う前提のない願いのようなもので、いざ受け取った時に本当に満足するかは自分次第。 己を納得させられるか、望んでいたのは別だったと開き直るか。 いずれにせよ、身勝手極まりないのは確かだ。 無防備に寝入る倉間が正直憎……めるわけもないが忍耐力を試すテストとしては難易度がそろそろ高い。 暖房の効いた部屋のソファでくつろげば、こうなることは見えていた気もする。 肩へ凭れかかる重みが幸せであると同時に試練でもあった。至近距離で届く寝息、時たま身じろいで擦り寄る体温。細心の注意を払って髪へと触れ、おそるおそる撫でた。 「ん…、」 鼻から抜ける音に思わず手を離す。頭が動いて顔が少しばかり上を向く。 「っ、」 覗き込む体勢を心から後悔する。この角度は凶悪だ。目を閉じて大人しく、そんな風に見えてくるのだから堪らない。 誘われるように、静かに、ゆっくり、唇を寄せていき我に返る。寸前で留まって息も止めた。心臓の音が早い。 呼吸も忘れそうになったその時、ぼんやりと倉間の瞼が開いた。自分を認めるとそのまま空間を詰め、触れる温かさ。 「!!」 相手が凭れているのも忘れて後ろへ退く。 ずる、とソファに身体を預けながら瞬きする倉間。 「寝惚け、」 「てねーよ」 寝起き特有の間延びした音で、しかしはっきり呟きを遮る。 離れたぶん近寄って、また顔を同じ高さに。肩へ手を置く。 「こら、やめろ」 「なんで」 言葉を失くした。 見据える光は責めるみたいに強い。 力も込められず、伸び上がった倉間の息が届く。 「なんで」 答えられないうちに、唇が柔らかく襲い掛かる。 |