でも寂しいよね


玄関先で靴も履いた、踏み出した。
しかし進むのを妨害するのは控えめながら返すつもりがあまり感じられない、相手。
手首ではなく指を絡めるように手を繋いできたところが強引より嘆願に思えて苛立ちを覚える。
こちらを優先する素振りでそうでもない事実に対して、たまに本気で腹が立つ。
なのに見つめてくる視線は迷い子の如く頼りないから噛み付くことも出来ない。
結局、僅かに目を逸らしてもごもごと口を動かす羽目になる。

「またすぐ、会うじゃないですか。てか同じ大学…」
「やだ、足りない、足りない」
「駄々っ子か!」

言いよどんだ口調より情けない声音が数秒前の遠慮を打ち砕いた。
振り解くまでもいかず繋いだ手を振るに留めた倉間の耐久に見合う台詞がさらに続く。

「お前が帰った後はいつも、」

ぽつりと零されたのは、小さいながら感情のこもった吐露。寂寥を滲ませ途切れた声、閉じる唇。
頭に血がのぼった。

「帰れなくなるだろ!!」

絡んだ指に力が込められる。

「うん」
「うんじゃねーよ」
「帰らなくていい」
「駄目です帰ります。あした語学だし」

極めて現実的な答えを返すも淡白な返答から発展はなく、触れ合う皮膚はそろそろ熱い。
玄関の段差でいつもより高い顔を睨み付け、背伸びして上唇へ噛み付いた。
薄く開いた隙間に舌をねじ込み、驚いた瞳を見つめながら粘膜を擦り、すぐに離す。

「――…っ明日!続き!」

やけくそで言い放てば、ぽかんと呆けた相手が一秒ののち。

「これ、お前もしんどいだろ」

べちん。間抜けに響く音。左手の自由を思い出して、突っ込み程度に頬を叩いたのは反射だった。

「俺だって!いつも、帰りたくな、」

急激に上がった体温を誤魔化すよう張り上げた声は、今度こそ力強く引き寄せた彼に飲み込まれる。


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