気のすむまで切り刻んでみたらいいんじゃないの


反射的に掴み上げた手首は強い力で振りほどこうともがく。切羽詰まった声はかたい。

「離してください」
「やだ」
「離せっ…」
「やだっつってんだよ!!」

荒げかけた声に被せて口をついて出る叫び。倉間がびくんと震え、身体が縮こまる。苛立ちは渦巻いて詰問になった。

「お前は自分が嫌だから逃げんの?俺が嫌だからやめんの?」
「み、なみさわさんに、迷惑かけたく」
「それが迷惑だ」

戸惑う声はそれでも聞き分けがない。この期に及んで寝言が過ぎる。勝手な結論を答えにするなと何度示せば伝わるのか。

「ひとつも傷つかないとか無理だろ、むしろいま傷付いた、すげぇ傷付いた。なのにそれを放置してお前は逃げる?」

掴んだ部位へ力が篭る、痛みを感じた相手の眉は僅かに寄ってそのまま視線が絡む。

「ふざっけんな!」
「ふざけてねぇよ!」

本気の罵倒に噛みつく反応、やっとのまともな声量に口角を上げる。

「ほら、喋れんなら口を動かせ投げ付けろぶつけてこい。食らいもしないのにわかるか!」

言い切る頃には自然と笑みが消えた。怯える部分がおかしい、いつも加害者ぶって己を責めて抱え込むなんて許さない。手首を握り直して引き寄せる、バランスを崩す倉間の頬をもう片方の指でなぞった。

「ついたとして、お前にしか治せない傷だよ」

見開いた目に今度こそ笑って、舌を覗かせて唇を舐めた。
どうせなら深く大きく穿たれてから考えればいいのだ、全ての責任を負う前提で。


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