泣けばすむと思うな


忍耐力というものはそこそこついている自覚がある。
たとえばそれが限界にきて爆発なりしたとしても、そこまで押し込めることは出来ているわけで。それならそのまま可能な限り引き延ばして、ちょっとでも少しでも届かないだろう所で発散したい。だから今まさにこの場面でどれだけ無理があっても無茶であっても乗り切らなければ何もかもが無駄になるのだ。唇を噛んだだけでは足りない、奥歯を噛みしめるなんてとっくの昔。こちらを向く前に気付かれる前に小憎たらしい後輩になってしまえばいい。決して一粒でも落としてなるものか。女子でもあるまいしーーこの言い方は失礼に当たるかもしれないけれど――それによる罪悪感を持たせる要素などお断りだ。瞳へ滲む寸前、表面的にはわからないこのうちに全てを飲み込もう。唾が喉を流れて、胸元の苦しさが増していく。

「ほんと、うっぜえ」

心から絞り出すその怒りは自分へ向けたもの。意味を違えて取られても今日ばかりは構わない、これで呆れるなりしてくれればそれでいい。
振り向かないまま息を吐いた相手からの言葉が耳に。

「お前、声が泣いてる」

ぐ、と喉が詰まった。
そこで逃げればよかったのに、みっともなく椅子をを倒してしまうに留まって、あっさり距離も詰められる。

「ひどい顔」

伸びてくる腕をかろうじて払う。気分を害しもせずに顔だけを近づけて寄せる、その目。

「泣きやむまでちゃんと待つし、泣きたくないなら止めてやろうか」


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