チョコレートが降ってくる


後ろから凭れに行くと最近は首が痛いから振り向くのがめんどくさいと言われるようになった。どこまでつれない態度を進化させれば気が済むのかこの後輩は。
結局のところ、なんとかその機嫌を損ねない隙間を縫って機会を窺って自分へ向けさせているあたり重症だ。今日も今日とて、読みかけの本からちらり視線を上げ、目に見えて鬱陶しげに口を開いた。

「甘えたいんですか」
「そう、甘えたい」

軽く即答、寄る眉間の皺。苦々しく呟く了承の声。

「まあサービスしてあげてもいいですけど」
「お前普通にデレらんないわけ」
「今更」
「またそんなこと言う」

不満を伝えれば鼻で笑う答え。覗き込んだままたしなめのていを取る。
ぺたん、おもむろに当てられた右の手のひら。閉じた本を傍らへ置いて左手も添えられたかと思うと引き寄せられる。
地味に鈍い音、そして痛み。確認するまでもなく頭突きだった。

「随分とアグレッシブな好意で」

自分も割と痛かっただろうに唇を尖らせて睨んでくる。むー、じゃないからな、可愛いけど違うからな、色々。見つめ合いにしては不穏な数秒、額を緩く押し付けた。

「甘えさせて?」

剣呑さの増す瞳。柔らかく笑いかけていると額が離れ、温かい感触。鼻へも触れたと思ったら噛み付かれた。今度は唇へ当たり、ちゅ、ちゅ、と音を立てたのち、思い切り吸い付いて首に腕が絡む。食み返すのを逃げるように離れていき、朱の差した顔でぽつり。

「ばーか、ばか」

きつい視線は少し潤んで、もう一度触れる唇を舌先で舐めた。

「…すき」
「ん、すき」

お互いに目を閉じながら、今度は相手の頬へ触れる。


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