増えていくバツ印


まず、態度が悪い。最低限の尊敬を備えていれば何をしていいってものではないはずだ。ギリギリの敬語はたまに消えてなくなるし、呼びかけが『アンタ』な時点で生意気確定。
元々少なすぎる愛想は誤解されるのに十分、しかも弁解もほとんどしない。
それが自分だと諦めているのか、それとも開き直りか。後者を推す。
下手に理解者があるぶん、そこへ伝わればいいという無意識の甘えも出るだろう。
その位置に対して含むところはない、百歩譲って微かな羨望があったとしてそうなりたい訳でもなかった。

あれもダメ、これもダメ、それもダメ。向けられたのは自分だ。
ひとつ否定するたび傷付いた視線、引き結ぶ唇。こちらへ投げておきながら自分でダメージを受けてどうすると言いたい。
責任を押し付けるなら望むところ、その我侭なサインを察してしまえば選ぶ行動はひとつのみ。

「お前、怒られたい?」
「んなわけ、」
「でも喧嘩売ってるんだろ」
「っ…」

問う声は平坦に近く、疑問だけが軽く乗る。
小さく呟いた倉間は突き詰めた言葉で沈黙してしまう。
口元が緩む。

「面倒な奴」
「知ってます」
「ほら、また拗ねる」

声に笑いが滲んで指を伸ばした。
俯いた顎を持ち上げて、泣くまいと堪える瞳へ柔らかくキス。
一度見開いて固まったのち、疑問と動揺の視線へ変わる。
まずは微笑みかけてやることにして、鼻先をこすって唇を当てる。
向こうから食む感触を確かめながら深く合わせた。

いくつ不満を数えたとして、手放すつもりがなければ惚気と同じ。


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