強引な指切り


唐突に絡められた小指はさりげなく、しかし違和感をもって眼前に上がった。

「なんですかこれ」

机へ置いた手を取られたまでは許容範囲、ばらけた指を整えて形作るのはありがちなポーズ。
軽い力に引かれて、繋がる場所からほんの少しの体温が伝わる。
相手の唇が弧を描いた。

「お前が信じないから」
「は?」

不可解を示す返答にく、と笑う音。首を傾げる角度がわざとらしい。

「嘘ついたら針千本のます?」
「用意するほうが労力ですね」

努めて冷たく言い放ち、手を引くも、絡んだ小指はなかなかにしつこい。
勢いよく跳ね除ければその限りでもないが、そこまでするのも必死すぎて躊躇われる。
そしてそのことも分かっての行動なのが目の前の男だった。
強行突破を悩む隙を見逃さず、覗き込む視線。

「約束したら縛れるかと思って」

すました顔でさらりと横暴。
ひどい宣言だ。嫌がらせでしかない。
歯軋りで奥歯が鳴る。

「これ以上、」
「そう、これ以上」

搾り出した音を遮られ、睨む先では薄い微笑み。

「何もないのを言い訳に逃げられてもやだし」

自分勝手な理論にいよいよ押さえきれない感情が篭もる。

「口約束なんていくらでもっ」
「それでも、」

あふれかけた非難を止めたのは静かな声。また言わせないつもりかと剣呑さを増した眼光も受け流すよう眇める瞳。

「お前は覚えてるだろ」

告げてそのまま、小指の合わせ目へキスを落とす。
触れた場所から全身に広がるおぞましい指令。
がくん、と肩の力が抜け、震える声でかぶりを振る。

「さい、あ、く」
「その通り」

いっそ慈悲深い笑みまで浮かべ、蕩けるような音色が届く。

「最悪な俺と一緒に居ような」

演奏の終わりに、余韻とばかり繋がりがほどけた。


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