言葉どおり


いい加減懲りたらどうだ、と本人に言われた覚えもあるが、そもそもどの方向で来るか分からない反応に予防をすること自体不可能な話だ。
相変わらず苦手な単元を投げる癖のある倉間の勉強をみる休日の昼下がり。頭を使う科目で雑談に飛んだのが間違いか、集中力を欠き始めていた相手はここぞとばかりに乗ってきた。

「ああ、『南沢さんを殴り隊』みたいな」
「完全なる限定じゃねーか。悪意しか感じない」

アイドルユニットのネーミングが口にのぼったのはそもそも取りとめのない話だったからとはいえ、大喜利でもあるまいし捻った回答もネタも期待していない。
言った瞬間のみ視線を上げた倉間はさっさとノートへ視線を戻してシャープペンシルを動かしながらすげなく続ける。

「好感を覚えたらエム認定ですね、おめでとうございます」
「祝うな」
「新しい扉開いちゃったかと」
「ねーよ」

完全に止まった手と置かれる筆記具。向かい合う机へ掌を叩きつけ、心持ち低く言う。

「お前、無駄口叩いて出来てんだろーな」
「自分から話題振ったくせに…」

あからさまな溜め息が深々と。これにイラァッとこなかったら聖人君子じゃないのか。
掴んだノートをひっくり返して眺め、途中式と解を確かめた。
思わず脳内で舌打ちする。

「出来がいいのを褒めたい気持ちと頭を小突きたい気持ちが競ってる」
「大変ですね」
「まじお前舐めてるだろ」

両肘を突いてこちらを見る様子は他人事。眇めた視線と抗議を向けたところ、ずい、と乗り出してくる相手。
ノートは奪われ机に落ちて、近づいた唇から覗いた舌先が頬へ触れた。

「?!」
「舐めましたけど」

しれり、言ってくれる倉間と固まる自分。

「あー……、うん」

もはや何をどうしたらいいのか。
じわじわ上がってくる熱を隠すよう額を押さえ、軽く手招く。
大人しく机を回って寄ってきた倉間は左側。
伸ばした片腕で抱き締め、肩へ顔を埋めるようにしてから両手を背中に。

「もういい、かわいい」
「ちょろすぎて心配になります」


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