お望みどおり


あー、と間延びした声を出したい程度に処置に困るというか反応に困るというか、 とどのつまり、なんかきた。構わないとめんどくさいんだよなこれ。
そんな気持ちをたっぷり噛み締め、言葉を発さないことには解決もしないだろうと早々に諦めて声をかける。

「どうしたんですか」
「お前いま思いっきりめんどくさいって思っただろ」
「そういうところが」

脈絡もなく無言で抱き締めてくるのは甘えたいから。
後ろからでなく前から来られれば、びっくりして言葉が出ませんでした的言い草も聞かない訳で。
何より既に一度視線が合ってるので許容したことになる。別に拒否もしねーけど。
俺の正直な感情を見事読み取ってくれた南沢さんは責めるようで拗ねた口調、なおさら素直な言葉が自然に零れる。 肩に凭れる顔は見えないけれど、ぴくりとしたので、この野郎とか思ってるんじゃないかと。

「じゃあ今からデレます。南沢さんちょーかっこいー」
「てめ」

宣言と共に分かりやすく平坦な呟き。語尾に被せて不機嫌そうな声。

「むしろアンタがカッコいいとか俺からすれば今更ですし」
「……は?」

少しの間、埋まっていた顔が上がる。
見詰め合ったものの、何が起こったのかわからないと言いたげな顔で固まっている南沢さん。
おもむろに唇を寄せた。静かに触れて、瞳が揺れる。

「な、に、お前」
「や、なんか動かないんで生きてんのかなと」
「どんな生存確認だどんな」

呆然とした様子に軽い答え。そのまま突っ込みにつづく表情は解せぬとばかり。
甘えてきておいてその反応は逆に俺に失礼じゃねーのか。

「つかお前、なんでこういうのは無駄にさらっとしてくんの」
「したいと思ったときにする主義なんで」

む、と唇が歪む。再び近づきそうになるのを指で止めた。

「あ、残念ー打ち止めなんでー、今日の分終了したんでー」
「セール品みたく言うな」
「安売りしないから止めてんですよ」

笑って指先で隙間をなぞると吸い付く感触。
抉じ開けるように指を動かし、鼻先を擦り合わせて噛み付いた。


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