正直なので 「おま、ひざ、膝で……」 「ものすごく人権侵害を食らったのでつい」 肩を掴んで勢いよく鳩尾へ。つい、というには些か入れすぎた気もしないでもないが、 それだけのことをやらかした自覚くらいはそろそろもってほしいものだった。 むしろ毎度反応を楽しんでいる部分があるあたり、手に負えない。 大体、避けられるなら避けるべきだ。いつも寸止めさせるくせに、なんて責任転嫁な気持ちも湧く。 家に帰って夕食後、当然のように話題に出た。 「お前あれマジだったろ」 「顔狙わなかっただけ感謝してくださいよ」 不機嫌というより拗ねた様子の南沢さんは、すげなく返した言葉に何故か口元を上げてくる。 見慣れたふてぶてしい笑みが上から目線。いや実際、座椅子に寝転がるよう凭れ掛かった俺と 普通に座る相手では高低差がある訳だが。 「へえ、俺の顔殴れんの?」 「はあ?殴られたいんすか」 「この顔、好きだろ?」 あからさまにうざいと主張した声も無視して近寄る顔、反射的に掌を食らわせた。 「ぶ」 べっちん。間抜けな響きも日常な気がする。 そのまま押し退けて身を起こし、肩を鳴らしながら読みかけた本を閉じた。 「顔じゃないとこがいいなら喜んで」 「嬉しそうに拳を握るな」 それはもうにっこり笑って見せると復活した南沢さんが手を伸ばす。 「キス」 作りかけた拳をそっと押さえられ、また顔を寄せての催促。 口元を引き結ぶ。 「唐突」 「いつも」 「…知ってる」 僅かばかりの反論はあっさり返され、釈然としない気分で呟くと更に顔が近づく。 逸らそうとした視線が捕らえられ、まっすぐ見つめる瞳と真剣な声。 「いつも、欲しい」 身体が縫い止められるような、感覚。 「おれ、だって」 「だって?」 すぐに答えたいのに言葉に詰まる。 先を促す相手に揶揄は見当たらない。それがすごく、癪だ。 「ずっと、ほしい」 「うん」 微笑んだ表情の柔らかさに負けた気になりながら口を開けた。 |