実態


贔屓にはフィルターがかかるもんだ、ときちんと認識したのはいつだったか。
とにかく、自分が相手にそこそこ夢を見ていたのは事実で、それが覚めていない部分も否定しきれず、だがしかし突っ込みを入れたい現実が存在することは如何ともしがたい。同じ時間を過ごすうちに気付く、気付かざるをえなかった。

南沢さんというのは癪だが出来た人で、卒がないところが更にむかつくコラボレーションをやってのける。評価をつければ、大変よく出来ましたに花丸植木鉢ちょうちょ付きみたいな感じの。まさに優等生。だからこそ、本人がスマートだと無意識に思ってるのが一番可哀想だと思う。

「今更ですけどアンタ俺に対して残念ですよね…」

前触れもなくぽつりと呟いてしまったのは、あからさまに気を抜いた様子で肩にもたれる相手に油断しすぎていたからだ。聞いてるか聞いてないか分からない様子だったので失言を自覚しつつ雑誌をめくる。のったりと顔を上げた南沢さんが唐突に言う。

「いや?」
「え、あの」

近い。そりゃ肩に頭乗せてたんだから近いだろうよ。
少し気だるげなまま、寝惚けたに近い声で聞いてくるな、答えづらい。

「いやかって聞いてんの」
「や、その、」
「なに」

ぐいぐいくる、すごくうざい。なんだこの人、マジ残念だなオイ。地味に体重をかけてくるのもやめろと言いたい。逃げねえよ、この状態で逃げるとかアンタが転がり落ちるだろうがソファーから。覗き込む瞳に拗ねまで滲んできて、溜息を押し殺して目を閉じた。

「すきにどうぞ」


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