そそぐだけ


「お前よくうざいとか言うけど」
「その入りで既に聞きたくないんすけど」

いつ何を言い出すか分からない。 付き合いに比例して手に負えなくなってくる先輩の言動に倉間はそろそろうんざりを通り越していた。 間髪入れずに切りかかるも流されて、隣で寛ぐ――本人の部屋だからそれは好きにすればいいが――南沢が 手元の雑誌から視線を動かさず口にする。

「俺はお前がそうやって跳ね除けて回避してる気になってる量の軽く 10倍くらいはこの先注いでいくつもりだから早く慣れろよな」

思わず相手を見る。変化のない横顔。

「………日割り計算で?」
「いや、1日カウントで」
「殺す気か!」

聞いた瞬間動いた唇と台詞に違和感。 戸惑いは隙を生み、そして敵に機会を与える。
待っていたように視線が自分を向く。

「お前、俺の愛情で死ぬんだ?」

ざっ!と音を立て後ずさるも左肩を掴まれる。迫る表情はとてつもなく愉しそうで憎々しい。
相手の左手が頬をなぞるギリギリで指を止める。 至近距離で空気を通し、触れずに伝わる体温がこそばゆい。

「驚き?恥ずかしい?それとも、」

わざと緩慢に紡がれる疑問系、言葉に合わせて接触する、手のひら。

「本当に、いや?」

瞳が微笑んで、答えろと脅す。

「わ、かってるくせに」

振り払うこともできず、息を呑むだけ。なんとか口にした言葉は頼りないもの。
途端、目が光って、獲物を見定めたかの如く舌が覗く。 震える肩を力が押さえる。

「俺、お前のそういう顔、すげぇ好き」
「趣味わっる…」

せめてもの抵抗で表情を顰めれば、ますます嬉しげに言葉が落ちる。

「たまんね、食べたい」


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