自重しろ


「まじ自重しろ」

シーツに沈んで呼吸を整え、余韻を味わう間よりも回復を取ってしばらく。
ようやく発した一言は地を這うような音だった。
恨みさえ篭もっているんじゃないかというノリに返ってきたのは静かな不機嫌。

「したからお前文句言えるんだよ」
「はあ?!」

まだ声を張るのも辛いことさえ忘れて両手で布団を叩く。
勢いで上げた顔を向けて睨みつけたところ、同じく視線を飛ばしてきた相手の眉が寄る。

「おれすーげー頑張った、抑えた、まだ10回もやってねーのに気絶とかしたいのお前」
「っ……!?」

淡々と、しかしはっきりと。耳に届いて理解して固まる。
落とされたのはとんでもない爆弾で、もはや開き直りでしかないそれは言葉を失うのに十分だった。
ぱくぱく口だけ動かす自分を見て、顔を隠すように視線を逸らす。横顔は硬い。

「…………嘘」
「いや、それ嘘だろ」

たっぷりの間を取って聞こえた音に信憑性などなかった。

「いいから、嘘」

重ねた返答と伸びる腕、拒む理由も必要もなくてそのまま腕におさまってしまう。

「言っといて自分でヘコむのやめてくれませんか」

直球を投げれば強くなる腕の力。ぎゅうぎゅうぎゅう、と抱き締める割に不安ばかりがこちらに伝わる。
ついつい拗ねていくのはどっちの話か。

「……やらねーとかいわねーし」
「…じゃなくて、怖がらせ、」
「まだなってないからしりませーん」

悔し紛れに呟けば今更過ぎるセリフがぽつり。思わず遮ってわざとらしく語尾を引っ張る。

「……おまえ」

堪える表情で覗き込むのをキスで迎えた。
ますます歪んでしまう情けなさに擦り寄って応える。
両頬を手のひらで包む、瞳を合わせて、吐息すら混ぜて。

「…もっかい」
「いやいやいや」

首も振れず、声だけで難色を示す往生際の悪さ。
自分は知っている、こうなってしまえば抗えない人だということも。

「みなみさわさん、もっかい」

目を閉じて待てば、肩を掴む力が加わった。


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