寝惚けた 「わり、遅くなった」 扉をくぐって声を発したところ、返ってくるものがない。 おや、と辺りを見回すと机で寝落ちている後輩を発見した。 うつ伏せになってる倉間の肩を軽く叩くと、僅か顔をあげてぼんやりした目を合わせ開口一番。 「すんません、南沢さん待ってるんで…」 「は?」 定まらない視線のまま、待っているはずの本人へ説明が開始される。 「あの人、どっちでもいいけどとか言いながら帰ったら拗ねるっていうか、」 「へえ」 「めんどくせーけど、俺が相手しなきゃなんないんで」 「ふうん」 眠そうな声でつらつら並べられる言葉に短く相づちを打つ。 続きそうな台詞が途切れ、また腕へと頭を戻す相手。 先程と変わらないトーンのはずなのに頼りなく聞こえてくる、声。 「どうせ飽きるまでだろうから、」 「俺が?」 「少しくらい一緒に…」 「一緒に?」 もう一度目を閉じようとするのを覗き込み、反芻する。瞳がぱちりと開いた。 「……――っ?!」 飛び上がるように上半身を起こす。 椅子が揺れ、静かな部屋に騒がしく響く。 「お待たせ」 動揺の広がる相手の顔、滑稽に思えて仕方のない状況。 離れただけ距離を詰めて、肩を掴んで顎を引き寄せる。 「誰が飽きるって?」 語尾の上がり方に感情が篭った。 苛立ちが脳内を駆け巡る、勢いに任せて言いつのる。 「つーかなに、お前同情?」 「な、」 「どーせってなんだよ、気の迷いやからかいだから適当に付き合ってやろうとかふざけんなよ。こっちはお前と学年違うし少しでも時間が欲し…い、」 反論を潰して並べ立てる、心外だとでも言いたげなその顔に更に苛立って本音を口走った時、目の前の表情に変化が。 思わず思考が止まる。可能性が過ぎった。少しくらい、その言い方が示す意味はもしかして。 急に真顔になった南沢を窺うように倉間が口を開く。 「……あの」 「お前の一緒にって、」 「通じたならそれでいいんで離してもらえませんかね」 「いやだ」 確かめようと落とした言葉は突き返され、早口の理由を察して即答を。 顎に添えた指を動かす。 「口、あけて」 逸らそうとする視線。逃がしはしない。 「あけろ」 低めに呟けば悔しげに目を伏せ、あー、と素直に口を開く。 噛み付くよう唇を重ね、力を抜く身体を抱き締めた。 |