甘えのさじ加減


近くのコンビニから戻ってきた相手の髪に、ちらほらと乗っている、白。

「雪、積もってますよ」
「出るとき若干降ってたけど朝だけだって予報が」
「今がその朝だろ」

よく見れば肩をはじめとして全身にまとわりついている。
払ったら落ちるレベルではあるが、浴びながら歩いてきたならその冷たさは想像に難くない。

「溶けたら濡れるっつの」

ぱらぱら落とす雪の幾らかは、もう水分として髪の毛に吸収されてしまったようだ。
慌てて洗面所からタオルを取ってきて、わしゃわしゃと拭きにかかる。

「あーあーもー、アンタよくわかんないとこでものぐさなのやめて下さい」

ひどい時は明らかに雲行きが怪しくても折り畳み傘すら入れないことがある。
帰れないから迎えよろしく、なんてメールの受信で携帯を何度か投げた。二つ折りのタイプで本当に良かったと思う。
大人しく玄関でされるがままの南沢をタオルをかけたまま覗き込む。

「頭悪くないんだから風邪ひきますよ」
「ふは、やっさし」

破顔して抱きついてくるのを避けられなかった。

「ちょ、つめたっ」

段差のおかげで同じ目線、それが癇に障る事実はさておき、思ったより相手の身体はひんやりしている。
室温に慣れていたせいで一気に鳥肌が立った。

「俺が冷える!」
「冷えない」

思わず叫んだ勢いへ被せるのは何故か否定。
がっちりホールドしてくれた南沢のおかげで体温は現在進行形で奪われつつある。
そりゃアンタは冷えないだろうよ、と言いかければ追加で満足げに。

「こうしてたら、冷えない」
「日本語お願いします」

もうさっさと暖房へ逃げたい倉間の顔を確かめて、甘えるように相好を崩す。

「あったかいこと、する?」
「風呂でも入っとけ!」

引いたタオルを顔へ食らわせた。


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