降参


大きく息を吐いたのはお互いに、少しだけずれたその呼吸に視線を向け、覗き込むよう顔を寄せた。
くた、と身を投げ出す倉間の頬を撫でて呼びかけようとしたところ、目を開けた相手の指が自分の頬へ触れる。
ぼんやり、焦点の定まりきらない瞳が見つめる艶。

「たり、ました…?足ります?」

少し掠れ気味に、しかしはっきりと聞こえた問いかけは思考を止めるには十分なもので、
わきあがる何がしかを抑え込みながら口にする。

「……そういうの禁止」
「…?」

ちゅ。軽く触れる唇、疑問の浮かぶ顔を見なかったようにしてシーツへ手を突き顔を上げる。

「今日はもう終わり」

肩を掴む指、力は少しだけ、なのに強く感じる。
見たら負けだが見ない訳にもいかず、合わせた視線は予想通り色のある、それで。

「おれ、は、もっかい」
「あーもう」

切れ切れな催促に白旗を揚げるしかなかった。



「おまえさー、俺が断れないのわかってて」
「断らないのわかってて、です」

わざわざ一部訂正して涼しげに答える後輩の態度がとんでもない。
微妙な間、およそ数秒。なんともいえない自分を見て、倉間がにやー、と笑みを浮かべる。
悔し紛れに頭をぐしゃぐしゃ掻き回す。笑ったまま首を竦めた。

「わ、」
「お前ほんと、」
「いや?」

またまた遮っての台詞はまっすぐとこちらを見て。
本当の本当にたちが悪い。

「じゃないから困ってんだよ」


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