再確認


「お疲れ様でしたー」
「ああ、お疲れ」

汗を一通り拭いてからジャージを羽織る。ファスナーを合わせ首元まで上げ、る途中で違和感に気付いた。
緩い、というか少し大きい。袖も手の甲まできている。

「倉間、それ俺の」
「へ」

ベンチの上、おざなりに脱ぎ捨てたそれを確認せずに手に取った。
自分の鞄の横だと思ったらどうやら重なっていたらしい。

「…紛らわしいからやめてください」
「勝手に着といて。つか、やっぱでかいのな」

締めかけた前を開けて脱ごうとすると、言葉の終わりに笑いが含まれた。
睨みを飛ばしたところ、軽く口元に手をやった相手と目が合う。
楽しそうに表情がにやつく。

「かーわいい」

こめかみのあたりが引きつった。

「明日から一ミリずつ南沢さんが削れればいいのに」
「縮めより相当えぐいぞ」

念というより呪いを込める勢いで口から零す。 一瞬で真顔になった相手から即ツッコミが入る。
脱ぎかけた上着にちらりと視線を落とした。余裕分の、体格差。 南沢も身長があるほうではない、それでも自分よりは、ずっと。 明確な事実を突きつけられて、面白くない気持ちになる。

「……削れれば可愛いのに」
「どう反応しろと。あと削れないから」
「チッ」
「舌打ちすんな」

繰り返しの呟きにまともな返答。少し呆れた風にも取れる。
無意識に乾いた音を鳴らす。もう一度相手を見た。

「普通に可愛く思って欲しいんですか」
「よし、どうしてそうなった」

はあ、と溜息をついて鞄を持ち上げる。何だかイラついた。

「帰ります」
「こらこら」

踵を返しかけて肩を掴まれる。何かと胡乱な視線を向ければ笑いを堪えたような、顔。
ハッと自分の羽織るものを思い出す。

「そんなに着て帰りたい?」
「くそが!」

脱ぎ捨てるつもりが、肩の手が邪魔で脱ぎ切れない。
ベンチから倉間のジャージを持ち上げた南沢がふふりと笑う。

「なら俺は倉間の持って帰るかな」

物凄く悪寒がした。

「いま、すっげーぞわって!こわ!」
「失礼な」
「返します!」
「まーまー」

じたばたと暴れ出す倉間を宥めるように抱き込んできた。
むしろ完全に捕まったという表現が正しい。 声のトーンは先程から軽いのに、行動が伴っていない。
後ろから肩に顎を乗せ、抱き締める腕に力を込めながら耳元へ息がかけられる。

「あんま可愛いことばっかすんなよ」

舌が耳朶に触れた瞬間、肘鉄を思い切り打ち込んだ。


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