懲りない日常


霧雨という時点で読めた展開でもあった。
玄関で髪を掻き上げる相手に呆れの一言。

「…また濡らしてきた」
「好きで濡れてない」
「どーだか」

しっとりさせたまま非を認めない。放っておきたいというか百歩譲ってタオルを投げつけるくらいはしたいところだけれど、自制心でもって頭に被せた。むしろ乗せた。
じ、と見てくる視線も舌打ちで受けて少しばかり乱暴に拭いてやる。
何が腹立つかって、こんな時、自分に世話される相手がひどく嬉しそうなことだ。

――絶対見捨てないとか思ってるよな。しねぇけど。

そして絶対に言わねーけど、と心の声に付け加えて首にタオルをかける。
どうせ風呂で着替えのコースだ。ついでに洗濯機に入れてくれたらいい。

「風邪引かないでくださいよ」
「努力する」

即答がなんとも胡散臭いと視線を向ければ、割かし真面目な様子で言葉を繋ぐ。

「ほんとにちゃんとする」

思ったよりきちんとした響きに瞬くとそのままもうひとつ。

「看病は嬉しいけどお前にうつすのやだし」
「うつすようなことする気ですか」
「ふは」

素で口にした返しに表情が柔らかく戻って、靴を脱いで床へ上がった。

「警戒しすぎ」
「足りないくらいですよ」

向こうが進んだぶん空間をあけるとほんの僅か不満げな口元。
伸びてくる手は肩に添えるだけ。強制力はないに等しい。

「んー、」

間延びしたそれは考える音に聞こえるが、決めている上でのただの間だ。

「じゃあ気をつけるからキスして」
「意味不明!!」

やっぱり馬鹿だった相手へ叫ぶも、今度は圧し掛かるみたいに首まわりへ腕を絡めてきた。
こけたらどうしてくれる、と思ったがそうなったところでどうせ自分を庇う結果まで想像できて眩暈がする。

「倉間から」

寄せられた距離はもう十分近い。ここまでくればねだる意味もほぼないだろうに、あくまで動けと敵は言う。

「まじアンタうぜー」

お決まりの態度でもって、我侭な唇を塞いでやった。


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