落ち着くところ


程よく効いた暖房と疲れの掛け算といえば行き着く先は分かりやすい。

「倉間、ほら、寝るなら向こう」

今にも舟をこぎそうだった後輩の頭がかくん、と傾ぎ、机に頭を打ちそうなのを慌てて肩を引いて支える。
揺られた勢いで少しだけ開いた目がぼんやり焦点を結ぶ。この様子だとまともに自分を認識しているかも怪しい。

「使っていいから」

すぐ後ろのベッドを示せば、のったり視線を巡らし、床に掌を突いた。
立ち上がるなら手を貸そうかと思ったところ、何故か凭れかかってくる、体重。
わざわざ変えた角度は胸におさまる為で、擦り付く動きが定位置とばかり。

「や、俺じゃなくて」
「んん、」

回らない思考で口を動かすも、眠りの邪魔だと唸るような音。
思わず言葉が途切れたのち、あまり間もおかず聞こえてくる静かな寝息。
完全に抜けた力で重さが加わる。

「……マジか」

ぽつん、と呟いた声は無意識で小さくなり、埋まってしまった顔からして呼吸は大丈夫なのかと覗き込む。
絶妙なバランスで寝こける倉間は厄介なことに袖の一部を握ってくれていた。
起こして誘導するなり何かしら方法はある、きっとやれないこともない、だがしかし。
こみ上げてくる感情の昂ぶりを必死に抑えながら、自由な片手で背中をそっと撫でた。袖の取られた腕も無理のない範囲で動かして、抱き込む形を取る。

「無防備とか、勘弁してくれ」

胸一杯の息を吐いて、額を相手の頭へ当てた。


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