脈絡


部屋で黙々と本を読む。くつろぎタイムは穏やかな雰囲気で過ぎていく。
なんとなく視線を上げたところ目が合った。よくある話だ。
しかし、そのあと思いついたような表情を浮かべた倉間に思わず視線を逸らしたくなる。
こういうとき、この後輩はろくなことを言わない。

「南沢さん、じゃんけんしましょう」

目線をはずせないままに聞かされたのは他愛のない提案。しかも真顔に近い。
それくらいなら、と思いたいところだがどうも警戒が先に立つ。

「俺がぐーかぱーかちょきだすから南沢さんグー出してください」

答えも待たず、倉間が順番に台詞どおり手を動かす。
子供の手遊びの『なに作ろう〜』あたりのフレーズが頭をよぎったけれど、引っかかるものを覚えて思考を戻した。
どこかおかしい、確実におかしい、それはどれか。
睨み合いにしては奇妙な間が数秒、辿り着いた答えは――…

「…いやそれ俺負けるだろ」
「チッ…!」

あからさまな軽い音と共に寄る眉間、逸らされる視線。
それも一瞬のことで、すぐさま表情を整え白々しく言い切った。

「あいこかもしれないじゃないですか」
「舌打ちしておいてその態度!!」

思わず手に持った本の存在を忘れて床を叩きかけ、そっと栞を挟んで脇によける。
平常心、平常心だ南沢篤志。己に言い聞かせながら息を吐く。
ぽつり、揶揄でなく唇から零れた。

「構って欲しい?」
「聞かれるとうざいですね」

即答こそが何よりの。ひたすら喧嘩を売ってくるような険しい眼差しも照れ隠しと飲み込めば十分だ。
遠くもない距離を詰めて、望みの通り。

「じゃ、負けたら俺なにされんの」

薄く笑って顔を寄せれば、再度の舌打ちと共に唇が触れた。


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